プロローグ ハジマリ

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 ――第1次世界大戦・オルデシア皇国首都キャラデラ攻略戦――  そこは地獄だった。  硝煙と熱風が辺り一面を包み込み、夥しい数の屍骸が転がっている。オルデシア皇国の首都キャラデラといえば、厳かでありながらも美しい景観を持った街並みが有名である。あとは最先端技術の発明…だっただろうか。  しかし現在、地面のあちこちには巨大なクレーターが穿ち、美しい景観は破壊されて廃墟と化し、ぬらりと光る人の血が無言で戦いの激しさと狂気さを物語っている。  (…頼むから、もうこれ以上現れてくれるなよ…)   齢25歳。若いながらもマリアンヌ共和国軍の少佐の役に就いている青年ヴォルス・グロリアは、傷ついた数名の部下を引き連れて、市街地から少し離れた救護班の下へと向かっていた。  オルデシア皇国首都キャラデラ攻略戦…ちょっとした諍いから同盟国同士を巻き込んだ泥沼の世界的大戦に発展したのだが、それにようやくピリオドが打たれる最終局面の戦である。  マリアンヌ共和国軍を筆頭に数多くの国が参加しているオルデシア討伐軍は、当初簡単に首都を制圧できると目論んでいた。  まあそれも無理はない。相手の戦力はおよそ2,000。対するこちらの戦力は50,000。それも相手は疲弊しきっており、物資はほとんど底を尽きかけていると事前情報で聞かされていた。むしろこれで大戦がようやく終わるという安堵感から、オルデシア討伐軍全体に楽勝ムードが出ていたのかもしれない。  しかしその見通しは甘かった。  オルデシア軍の抵抗は想像以上に激しかったのだ。自分の味方の命をも全く気に留めない無差別攻撃にゲリラ攻撃、巨大な無人機による攻撃、さらには“あんな奥の手“を使ってくるなど、全く想像だにしていなかった。  その結果、敵味方入り混じる混戦状態になってしまい、多くの犠牲者が出てしまった。現にヴォルスの部下も少なからず亡くなってしまった者も出ている。  ふと、後ろを振り返って市街地を眺める。  あちらこちらに紅蓮の火の手が上がり、爆音が断続的に鳴り響く。  おそらく音の発生から察するに、議会と皇族が住まう城のある方だ。今も激しい戦いが繰り広げられているに違いないが、陥落するのは時間の問題だろう。  ならば現在自分のすべきことはただ一つ。戦いに加わって取れるかどうか分からない戦果を挙げるのではなく、仲間を確実に助けることだ。
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