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(モルブスの脅威は無くならんのに、人類同士でほんとなにやってんだか…)
「少佐。もう少しで救護班のキャンプ地に到着します」
ヴォルスの傍らで、地図を片手に一行を牽引していた紅一点、ファルナ・ジェリス少尉がそう伝えてくる。
常に固い怜悧な美貌と低いハスキーボイスで自分と同い年ぐらいに見えるが、実際は17歳。一般的に少女と称しても差し支えない年齢である。もちろん軍でそのような者は吐いて捨てるほどいるのだが、これまでの“地獄”を経験してもなお気丈さを保てる者はそう多くはない。若いのに大したものだと、自分の補佐官として任命されたという贔屓目を抜きにしても思う。
「そうか。ありがとう。引き続き少尉は警戒を怠らず誘導を頼む」
端的にそう述べると、ヴォルスは後ろを振り返って声を張った。
「みんな! あと少しで救護班のキャンプ地に着くそうだ! それまでなんとか堪えてくれ!」
おぉ~と気のない返事。傍らではハイッと凛とした返事。
まったく。これではどちらが先輩なのか分からないではないか。
そう思った時だった。
「…少佐。前方から何か変な音が聞こえてきます。これは…金属音? 悲鳴? それとなにか心がざわつくような不気味な気配が…」
そこまで聞けば十分だった。
おそらく“ヤツ”だ。
「…少尉。 君は後ろの連中を連れてすぐにここを離れろ。私が様子を見てくる」
「えっ!? し、しかし、この気配はマズイです! おそらく“例のアレです”! いくら少佐でも“心衛”を消耗し切っているこの状態ではとても…」
「黙れ少尉。現時点で“ヤツ”と正面から戦えるのは俺しかいない。なら救援には俺が行くしかないだろう。大丈夫。消耗しきっているのはお互い様だ」
「ならせめて私だけでもご一緒に…」
「上官命令に逆らうのか? 合流はそうだな…お互い生きてたらCポイントの補給地にしよう。…みんなを頼んだぞ」
「少佐っ!」
ファルナの警告を無視して、ヴォルスは勢いよく前へと駆け出す。
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