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徐々に近づいていくにつれて、ヴォルスにも音が鮮明に聞こえてくる。
眼前を塞ぐ瓦礫の山を一気に駆け上がった。
(あらら…これはもう手遅れかな)
視界の先に広がるのは、巨大かつ鋭利な刃物で手当たり次第に切り開かれたような大地と、血の海に沈む自軍の救護班の兵士達。おそらく必死で相手を迎撃しようとしたのだろう。あちらこちらに用を成さない武器が、持ち主を殺されて無念そうに散らばっている。そして――。
凄惨な光景のど真ん中にひっそりと佇む人の姿を確認すると、跳躍。瓦礫の山から地面へと降り立ち、その人物にゆっくりと語りかけた。
「…よう。やっぱりオマエだったか。久しぶりだな」
そこにいたのは、血に塗れた少年だった。
年齢は10歳前後くらいだろうか。そこら辺の街中の、どこにでもいるような普通の子供。ただしそれはあくまでも外見だけの話である。まさかこの少年が敵軍にとっての”英雄”であり、自軍にとっての“死神”であることは、誰も夢にも思わないだろう。
その少年はこちらを一瞥すると、あらゆる感情を押し殺したかのように機械的な表情でゆっくりと話した。
「…あんた、か。なぜ、こんな場所にいる?」
「敵の軍人である俺にそれを言うかね。ここには部下達が怪我をしたから寄ったんだよ。…ま、お前が全員殺しちまったみたいだから、とんだ無駄足になっちまったけど」
「…すまない」
「ほんとにそう思ってるんだったら、今すぐにでもここを立ち去って俺達を見過ごしてくれないかなぁ少年よ。おまえだってむやみやたらと人間殺したいわけじゃねぇだろ」
「…すまない」
「まっそうだよなぁ。…というわけで今日はお兄さんが特別にオマエを“殺してやるよ”。ありがたく思え」
そう言って腰の刀を引き抜く。
心衛を振り絞り、体中に走らせながら、それまで休んでいた相棒を再び呼び起こす。
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