第一章 『疫病神』と『寝取られのカノン』

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 この世界は呪われている――。  そのように思ったことはないだろうか。  貧困、廃疾、暴力、略奪、殺戮、欺瞞、差別、搾取、その他エトセトラ。  それに対してほとんどの人類はこう言うのだ。「このような問題を起こすのは間違っている。正さなければならないと。」  しかし正すことはできない。絶対的に間違っていると知りながらも、それをどうにかすることができない。いったいなぜなのだろうか。  答えは簡単だ。人類が個人主義・利己主義という名の呪いにかかっているのだ。  つまり、誰もが皆望むのだ。『他人よりも、より良いものを得たい』と。  だから人類は呪いの力によって、手と手を取り合うことを忘れ、醜く争い、果てにはこのような問題を繰り返すのだ。  何度も。何度も。  そして、ここにも人類の呪いによる縮図が完成している。  「はーい。では二人一組ペアになって~。一人が心霊と仮契約を交わしている間は、もう一人がしっかり相手を監視するんですよ~。」  ふたりひとくみ。それは友達のいない者(通称ぼっち)にとって、人類にかけられた呪いを最も痛感することのできるイベントの一つである。  そんなくだらないことを、次々とペアが成立していく様をぼーっと見つめながら、マリアンヌ共和国東地区第一心衛士養成高等学校1年生のエル・グロリアは思っていた。  黒髪、中肉中背、顔は可もなく不可もなく。コミュニケーション能力もそこまで不自由はなくほどほどである。にも関わらず彼がぼっちであるのは、“二つの理由”があった。   一つは時期外れの編入である。マリアンヌ暦の4月からスタートする心衛士養成高等学校。そのカリキュラム進度は並ではなく、心衛に対してあやふやな基礎しかなく半ば強制的にぶち込まれたエルにとっては、たった2ヶ月でアキレスに置いていかれた亀状態となってしまったのだ。  (だいたい、この時期(6月)に編入したらぼっちになるのは当たり前だろ。なにがオマエなら多分なんとかなんだろ…だ。ヴォルスのアホ)  ここにはいない、エルをこの苦境の中へとぶち込んだ阿呆への悪態を、心の中でつく。     
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