第一章 『疫病神』と『寝取られのカノン』

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 教師の説明が終わると、特殊なケージの中に入っている光の玉達が一斉に教室中に放たれる。それらはふわふわと宙を漂い、ぼんやりとした光でうす暗い教室を照らし出す。まるで夜の川原に漂う蛍のように。  この光の玉達がこれから仮契約を行うことになっている心霊だ。心霊はアストラル界という人間が行くことのできない世界の生き物であり、その姿は獣、虫、魚、鳥、人と様々である。また契約を交わした心霊は、心衛という人間の持つエネルギーを対価とすることでこの世に具現化し、様々な恩恵や加護を人間に与えてくれる。そうして与えられた恩恵や加護を武器に異形の生物達と戦ったり、様々な困難を切り開く者のことを、心衛士と呼ぶのだ。  ちなみに心霊には格というものが存在し、格の高い心霊ほど得られる恩恵も大きい。そのため心衛士にとって格の高い心霊と契約を交わすことは、金や地位、権力などと並ぶ大きな社会的ステータスとなりうるのだ。  「じゃあ私達も早速始めましょう! えっと、最初はエルさんと私どちらから…」  「…あ~。じゃあレディーファーストってことで、おまえが先にやってくれ。その後に俺がやるよ」  「分かりました。では仮契約の間、私のカラダお願いしますね」  明るく微笑みながらそう言うと、ふよふよと近くに寄ってきた心霊に狙いを定め、カノンはすっと目を閉じる。  腰からしゃんと抜き出したのは、刀。すなわち心霊の憑代だ。  「アストラルに住まう心霊よ。大樹を守り、六芒星を司る六つの精霊の名の元において汝に命ずる。我、心衛士の祖であるユリアリアの末裔において、汝を使役する者。我と虚ろの契約を交わし、汝の力を我に与えたまえ…」  (まっこの学校にいるんだし、このぐらいは当然に出来るよなぁ。…はぁ。面倒くせぇ)  心霊との契約には手順がある。  ①心衛を高めたり憑代を取り出して、契約の準備を始める。②契約したい心霊を意識しつつ詠唱を唱える。③心的チャネルで心霊と交信を交わし、契約を認めさせる。  基本的にはこの三段階の手順を経ることで、実際に心霊の力を行使することができるようになるのだが、仮契約といえど容易ではなく、③の段階で問題が発生することが多い。      
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