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「うん♪」
それが、一体何なのか、彼も知らない。
「うん♪うん♪」
流線型の、丁度砲弾の様なフォルム。
それに手足が付いて、辛うじて人型の体裁を整えてはいる。
ご丁寧に、人肌に近い色をしてもいる。
が。
「うん♪うん♪うん♪」
通常なら頭部に当たる部分のみが顔では無く。
下弦の弧を描く両目、厚みのあるおちょぼ口は、胴と言える部分に付いている。
いや、言うなれば”楕円形の顔面に四肢が生えている”が正しいかも知れない。
明らかに、人間では無い。
「うん♪」
「うん♪」
「うん♪」
それらは大挙して、彼の周りを踊るかの様に手足を奇妙に振り上げ、振り下ろしつつ取り巻いている。
「うん♪」
「うん♪」
「うん♪」
笑顔、としか表現出来ない顔で。
彼への全肯定、或いは揶揄とも取れる声を発しつつ。
「・・・」
彼にとって、”それ”は少々うっとおしいが、無視を決め込んでいれば危害を加える存在では無いので、そのまま放置している。
とは言え。
”無視を決め込まなかったら”どうなのか、と言う事自体、彼は知らない。
無視以外の行動で、彼(?)等に対処した事は無いからだ。
「うん♪うん♪」
「うん♪」
「うん♪うん♪」
「・・・」
どちらにしろ、”それは彼以外の人間には見えていない”。
相手にするのも馬鹿馬鹿しい、と、胸の裡の苛立ちを押さえつつ、彼は自前の米を満載したカートを引いて、歩を進めていた。
「ん。」
その時、突然。
その、周囲の”賑やかし”が消えた。
ひゅう、と接近しつつある、風切り音。
「・・・」
彼はそっと目を閉じる。
飛来した”それ”は・・・
彼に到達する、数mm手前でぴたりと止まり。
やがて、重力に従い、落下した。
こん、からから・・・
陽の光を反射して輝きながら転がって行くそれは。
金色のライフル弾。
「ふん。」
物陰から、黒系のジャケットとネクタイ、スラックスに身を包んだ男が現れる。
眼差しこそ険しいが、面差しは彼に何処と無く似ている。
「また、失敗か。」
「やあ。」
男に対し、彼は。
にこやかに挨拶を向けた。
「二日ぶりだね、”兄さん”。」
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