第二章

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「・・・日を開ければ、多少油断を誘えるかと思ったんだけどな。」 兄と呼ばれたその男は、面白く無い内心を隠そうともせず、緩慢な仕種で弾を拾う。 「ま、それ以前の問題か。例え、当てられたとしても・・・」 そして、それを。 ちくわぶの穴に詰める。 「お前を殺せる気がしない。」 「相変わらず、道具はそれなんだね。」 「ん。」 弟である青年の言葉に、男はちくわぶを陽に翳し、改めて眺める。 「それが俺の”能力”だからな。」 その、語りの裏で。 『つまり、裏を返せば・・・』 「ははは。食べちゃえば証拠も残らないし、便利だね。」 『”その程度”の事しか出来ないって事、だけどな・・・』 忸怩たる思いを噛み締めている。 「でもさ。」 「ん?」 「僕を殺せないって解かってるなら、そんな仕事、降りちゃえばいいのに。」 「そうはいかんよ。依頼されたら受ける。受けたなら遂行する。それが俺のモットーだからな。」 「昔から頑固なんだから。兄さんは。」 「・・・」 「そうそう、今日、米が安かったから沢山買ったんだよ。」 「・・・お前、一週間前も10kgを5袋も買ってなかったっけ?」 「チャーハンにするから、いっぱい食べてよ。」 「またチャーハンかよ・・・」 「あ、ピラフの方が良かった?」 「・・・いいよ。チャーハンで。」 仕事で弟の命を狙う兄。 兄に命を狙われている弟。 二人は肩を並べ。 夕飯談義をしつつ、帰途に就いていた。 「ふんふ~ん。とかげさ~ん。へびさ~ん。かえるさ~ん。」 「ただいま。」 「おかえりなさ~い!あ!今日は大兄さんも一緒だぁ!」 自宅に帰り着いた二人を迎えたのは、一人の少女。 だが。 「・・・」 男は、その身体に視線を巡らせる。 『また、進行したな・・・』 真っ青な色。 滴る雫。 上半身こそは何とか原型を留めてはいる物の。 下半身は既に、不定形な粘液状の”何か”と化している。 「おやおや。また増やしたのかい?」 見慣れている為か、それを意に介さず、少女の後方に目を遣る青年。 そこには、何匹かの蜥蜴や蛇、蛙が少女に付き従うが如く、身を寄せている。 「だってヒマなんだもん。」 口を尖らせたその表情は、姿に関わらず、少女の歳相応な心情を現していた。
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