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「・・・父さんは?」
少女の姿。
その現実から目を逸らす為だろうか。
男は実情として全く気にしていない事を問う。
どうせ相変わらずなのだろう、と、その応えを予測して。
だが。
「死んじゃった。」
少女は、その内容に似つかわしく無い事も無気な口調でさらりと告げた。
「な・・・」
「ああ。そう。」
絶句する男。
特に意に介さない様子の青年。
男は靴を脱ぎ散らかすと言った態で家に上がり、駆け足で廊下の突き当りの襖の前に立ち・・・
それを手に掛けながらも、瞬時、躊躇し。
だが結局、すらり、と開け放った。
「・・・」
そこには、異様な光景が広がっている。
家屋の構造から察する事の出来るその部屋の広さは、通常なら六畳間、広くても八畳間が精々と言った所、にも関わらず。
何平米、等と勘定するのも馬鹿馬鹿しい。
何処までも続く、果ての見えない真っ白な空間。
虚無と表現するのが最も適当と言える、足場の所在さえ曖昧なその”世界”。
その”中心”と言える場所には。
なみなみと水様の液体の張られたプール。
その中央に浮かぶ、眼鏡を掛けた中年男。
呼吸を止めてしまっている”それ”は、満面の笑みを浮かべている。
「・・・父さん・・・」
彼のその声に反応したのは、その対象たる”水死体”ではなく。
「ねぇ。」
プールの際、プールサイドに立っていた、金髪の女だった。
少女と呼べる幼い容貌。
ツインテールの髪型。
吊り目。
何処かの高校辺りの制服の様な、ベストにミニスカート。
金髪は、口許から際限無く唾液を垂れ流し。
それは、足元のプールに流れ込んでいる。
プールの中身の全ては、純水ではなく、彼女の唾液なのだ。
「私、どうしたらいいの?」
「何だよ・・・」
「”造られた”のはいいけど、その”創造主”がコレだしさぁ。」
「幸せそうな顔、しやがって・・・」
金髪の呼び掛けを、意図的にか無意識にか。
無視しつつ男は、その水死体に呼び掛け続ける。
「・・・本望なんでしょ。限り無くキモいけど。」
「・・・!」
死者となった自分の父親への罵倒に、男はきっ、と鋭い眼を向ける。
「な、何よ。」
金髪はじりっ、とたじろぎ、後退り。
「ははは。」
その緊迫した空気を破ったのは、青年の朗らかな笑い声、であった。
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