第三章

2/5

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
「き、貴様ぁッ!そのまま動くなぁッ!」 無能警官め、と心の中で毒づく。 『来るならもう少し早く来いってんだ!』 そう。 今、俺の周りで倒れ伏してるこいつ等が。 俺を取り囲んで金を要求していた、その時に。 「・・・」 が。 今現在の状況では、どう見ても俺が”加害者”で、こいつ等が”被害者”だ。 こいつ等がどんなクズ野郎共だったにせよ。 そして。 よしんば俺に”力”の制御が出来たとして、それを行使しない事を自らの意志で選択し、こいつ等の身の安全を計った場合。 俺の方がどんな目に遭うかも解らなかった、と言ってもだ。 いや。 こいつ等の姿は、街で何度か見掛ている。 理不尽な要求を面白半分に道行く人々に吹っ掛け、それに異を唱えられると・・・ 嬉々としての、暴力による蹂躙。 その徹底ぶりは、目を覆うばかりだった。 下手をすれば、命の危険すらある。 ”どんな目に遭うか解らなかった”ではない。 火を見るより明らかだった。 「て、抵抗するなよッ!」 俺に銃口を向けつつ、手錠を取り出す警官。 俺は自分の身の安全を確保しただけだ。 何も悪く無い。 悪いのは・・・ 運と、警官のタイミング。 そして。 神クソッタレ様の底意地だ。 「・・・!」 俺は捕まりたくなかった。 今の結果は、こいつ等の自業自得だ。 が。 ざっと見て、息のある者は一人もいない。 いや。 形状的に息がある方が不思議、とも言える。 良くても”過剰防衛”・・・ 下手をすると、俺が一方的な悪人にされ兼ねない。 だから・・・ 『・・・駄目だっ!』 その欲求を叶える為、”さっきと同じ様に””力が俺の内部で鎌首をもたげる”。 『警官まで殺しちまったら、俺はっ!』 咄嗟の思い付きだった。 ”力”の発動は制御出来ないが。 精神を集中すれば、”その向かう対象”くらいは、選択出来る。 「う、動くなと言っとろうがぁッ!」 たかが眼鏡を外しただけで、酷い慌て様だ。 まあ、こいつ等の状況を見れば、それも仕方ないかも知れない。 「・・・っ!」 俺は警官に向かう筈の”力”を、手の中の眼鏡に転嫁し 「うわぁッ!」 眼鏡の暴発に、警官が吹っ飛ぶ。 俺はその隙に、逃走した。 『諦めねぇ・・・』 目尻に光る物を、拭いもせず。 『俺は”普通の人間”として生きて行くんだ!』
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加