第四章

2/6

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
”喜べ、お前達!” あれは、何年前の出来事だったろうか。 祖父が、自宅へと駆け込んで来た。 何時に無い、満面の喜色で。 ”俺達の力を、解明してくれるって研究所が見付かった!” ”これで世間に化け物扱いされずに済むかもしれないぞ!” ”博士はこの力の事を・・・何てったかな・・・そうそう!ちくわだ!ちくわって呼んでた!” ちくわ。 それがTRICK WORLDの聞き間違いだと判明したのは、そのすぐ後だったが。 ファーストインスピレーションと言うヤツなのか。 俺にとってこの能力は、未だ”ちくわ”と認識されている。 ともあれ。 あの時。 父が、小さく。 別にこのままでいいじゃんよ。 そう呟いた事を、何故か鮮明に覚えている。 ”我々の、イメージを具現、実現すると言うこの能力!神の力以外の何だと言うのだ!” あれから、数年。 研究者たちに稀な才能、特別な能力とおだてられ続けた祖父は、すっかり勘違いしていた。 ”ちくわを持つ我々こそが、世界を統べるに相応しい存在!新世界の神となるべき存在なのだ!” 自分達を化け物扱いして来た世間に復讐をしたいなら、素直にそう言えばいいのに、と。 父は相変わらず、原稿用紙に向かって何事かを描き込みつつ、鼻で笑っていた。 祖父に聞こえないように。 顔すら、向けず。 ”おお!どうした!” その日。 祖父は珍しく狼狽した。 自分の孫が、血みどろで帰って来たとすれば、当然だろう。 だが、彼には傷一つ無く。 それが返り血である事が、判明した。 だってあいつ、ぼくがかりようとしてたほん、もっていこうとするんだもん。 弟の言葉には、感情も抑揚も無かった。 彼が抱えていた図書館の蔵書もまた、血に塗れていた。 ”流石、儂の孫!秘密組織バステリオンの御曹司だ!” 祖父は、いつまでも笑い続けていた。 祖父の頭に合わせた照準。 口に咥えたちくわぶ。 俺にそれを依頼して来た人間は、ひょっとしたら、司法の公的機関の人間だったのかも知れない。 が、依頼人の素性など、どうでもいい。 請け負った仕事をこなすだけだ。 俺は、強く念じた。 その頭が、弾け飛ぶ様を。 それが実現したのは、一秒後。 秘密組織バステリオンの首領の、最期の時だった。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加