第四章

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「どうしたんだい?兄さん?」 「・・・いや、別に。」 青年の呼び掛けに、男は回想から我に返った。 次いで、ちら、と青年の抱える荷物を覗く。 「・・・あれを、修理するつもりなのか。」 「何だか面白そうだからね。」 現在、青年の周りには。 「うん♪」 「うんうん♪」 「うん♪」 あの”賑やかし”が、踊り回っている。 当然、男にも。 他の誰にも見えない。 「それに、父さんが僕達に遺したって事は、父さんもそれを望んでるんじゃないか、って思わない?」 「思わんな。」 多分、あれは単なる父の”玩具”なのだろう。 男は、そう察していた。 大体。 もしそれが亡き父の意志だったとして、それをこの弟が素直に継ぐ訳は無い。 主な動機は、前者。 面白そうだから、だろう、と。 「・・・」 袋の中には、雑多な電子機器。 しかし、まともに学校も通わなかった青年に、機械工学の知識など、有ろう筈も無い。 恐らく、電気屋から手当り次第、適当に商品を選んだ物と思われる。 それでも。 青年は”出来て”しまうだろう。 男より、強力な。 ”ちくわ”の力で。 「おい。」 「ん?何?」 「お前・・・」 その、”商品”に付着した微かな血液を、男は認めた。 「・・・いや。何でも無い。」 「ははは。変な兄さん。」 「・・・」 問わずとも、解る。 その応えを聞く事を厭うて、男は質問を止めた。 考えて見れば、電子機器、部品の類は、総じて高額だ。 この大柄な袋一杯に購入出来る程、弟に手持ちがあるとは思えない。 然るに、今現在、それを抱えてここにいる。 つまり・・・ 「・・・」 そもそも、”ちくわ”を使用すれば、本来こう言った部品の数々は必要無い。 要するに、青年は”機械いじり”がしたいだけだ。 或いは、”博士ゴッコ”だろうか。 そんな事の為に。 一体、電子機器販売小売店の何人が犠牲になったと言うのか。 『こいつは・・・』 弟ながら、男の背筋に氷を押し当てた様な冷気が張り付く。 ”殺し屋”たる男が、二人の尾行者の気配を感じ損ねたのは、その為だったのかも知れない。
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