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「どうしたんだい?兄さん?」
「・・・いや、別に。」
青年の呼び掛けに、男は回想から我に返った。
次いで、ちら、と青年の抱える荷物を覗く。
「・・・あれを、修理するつもりなのか。」
「何だか面白そうだからね。」
現在、青年の周りには。
「うん♪」
「うんうん♪」
「うん♪」
あの”賑やかし”が、踊り回っている。
当然、男にも。
他の誰にも見えない。
「それに、父さんが僕達に遺したって事は、父さんもそれを望んでるんじゃないか、って思わない?」
「思わんな。」
多分、あれは単なる父の”玩具”なのだろう。
男は、そう察していた。
大体。
もしそれが亡き父の意志だったとして、それをこの弟が素直に継ぐ訳は無い。
主な動機は、前者。
面白そうだから、だろう、と。
「・・・」
袋の中には、雑多な電子機器。
しかし、まともに学校も通わなかった青年に、機械工学の知識など、有ろう筈も無い。
恐らく、電気屋から手当り次第、適当に商品を選んだ物と思われる。
それでも。
青年は”出来て”しまうだろう。
男より、強力な。
”ちくわ”の力で。
「おい。」
「ん?何?」
「お前・・・」
その、”商品”に付着した微かな血液を、男は認めた。
「・・・いや。何でも無い。」
「ははは。変な兄さん。」
「・・・」
問わずとも、解る。
その応えを聞く事を厭うて、男は質問を止めた。
考えて見れば、電子機器、部品の類は、総じて高額だ。
この大柄な袋一杯に購入出来る程、弟に手持ちがあるとは思えない。
然るに、今現在、それを抱えてここにいる。
つまり・・・
「・・・」
そもそも、”ちくわ”を使用すれば、本来こう言った部品の数々は必要無い。
要するに、青年は”機械いじり”がしたいだけだ。
或いは、”博士ゴッコ”だろうか。
そんな事の為に。
一体、電子機器販売小売店の何人が犠牲になったと言うのか。
『こいつは・・・』
弟ながら、男の背筋に氷を押し当てた様な冷気が張り付く。
”殺し屋”たる男が、二人の尾行者の気配を感じ損ねたのは、その為だったのかも知れない。
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