第四章

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「がんばれー。がんばれー。」 兄弟が自宅に到着すると、妹がコタツの上、ミカンを剥きつつ声を挙げていた。 「・・・何してんだお前。」 見ると、その視線の先には。 脱皮中の蜥蜴。 「見て見てー。大兄さん、小兄さん。」 それから目を離さず、既に胸の辺りまで不定形となった少女は二人に声を掛ける。 『また、進行してるな・・・』 「古い身体を捨てて、新しい身体になるのー。私と同じー。」 「・・・」 男の心も知らず、能天気にのんびりとした声を発している。 少なくとも、男にはそう見えた。 「ねぇねぇ。」 そこへ。 にょろり、と寄り来た、影が一つ。 「この身体って、コタツ入れないんだけど。」 それは、少女の創造物と融合し、下半身が蛇となったあの金髪だった。 その姿は、まるで想像上の生物、ラミアの様でもある。 「それが?」 青年は、彼女に対する興味の一切が無い様だ。 いや、これから始める自分の楽しみ・・・ ”遊び”こそを優先させたいだけかも知れない。 さっさと”あれ”の眠る六畳間へと足を運んでしまう。 「それが、ってさぁ・・・」 「まぁ、命が助かっただけでも感謝して欲しいな。」 「・・・」 男にも、どうしてやる事も出来ない。 自然、諦観を促す為、冷たい物言いになってしまう。 金髪は頬を膨らませ、まぁそうなんだけどさ、でもさぁ、と、ぶつぶつ文句を垂れている。 「がんばれー。あとちょっとー。」 少女は相も変わらず、蜥蜴の応援を続けている。 「・・・」 男は少々呆れた面持ちで少女に視線を向ける。 と・・・ 『・・・え?』 「でも、キミはいいねー。」 全身、顔面まで粘液状の何かに変化している少女の顔には。 それに紛れ、注視しないと解からないが。 目尻から、つう、と粘液とは別の液体。 泣いているようだ。 「新しい身体になっても、元通りだもんねー。」 「・・・」 妹の”ちくわ”は強力過ぎる。 思念の暴走により、徐々に液状化を来している、その身体。 彼女自身にも、それを止める事は出来ない。 少しでも原型を留めていられるのは、あとどれくらいだろう・・・ 彼女の胸の裡を、男は始めて理解した。
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