第四章

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「この家か!この家に入って行ったな!」 「お、おい!やめとけ!」 勢い込んで、電柱の蔭から躍り出ようとするその二を、その一が制止する。 男と青年の後を着け、辿り着いた家屋前である。 「何で止めんだよ!」 「だ、だって君、殴り込むつもりだろう!?」 「だから言ってるじゃねぇかよ!首領殺(や)った野郎は、ぶっ殺してやるってよぉ!」 「だからってそんないきなりっ!」 どちらにしろ、その二は激情に駆られた状態だ。 そのまま突っ走らせるのは危険だと判断したその一は、半ば苦し紛れに告げた。 「と、兎に角、先輩に相談しようよ!な?話はそれからだ!」 「・・・お前。」 一瞬、説得が功を奏したかとその一は思った。 その二が前方に向けていた力をふ、と抜き、こちらに向き直った為だ。 が。 「いつまであの人を縛り付けて置く気だ?」 「・・・え?」 思わぬその二の言葉に、思考が停止する。 「俺達は、どう足掻いたってこの姿のまんまだ。」 「・・・」 己の身を探るその二に釣られ、その一も自分の身体を見下ろす。 「人間社会で生きて行く事は出来ねぇ。影で生きるか闇に消えるか、だ。」 「・・・」 「だけど、あの人は・・・」 「・・・」 そう。 彼等が先輩と呼ぶ彼女は。 生れついての能力者でも無ければ、改造手術を受けた訳でも無い。 普通の人間として生きて行ける筈なのだ。 「・・・だから、よ。」 「・・・」 「もう、あの人を・・・巻き込みたくねぇんだよ、俺は。」 「君・・・」 その一は、始めて気付いた。 その二と自分は、彼女・・・先輩に抱いている感情が、同じ物だ、と。 ただ。 その感情故に。 一方は、このまま共に暮らす事を望み。 一方は、身を引く事を考えているのだ。 「だから・・・」 「なぁに勝手な事言ってんだよ手前ぇ。」 「え?」 「あ!」 割って入った声に、二人が同時に振り向く。 「帰りが遅ぇと思ったら、下らねぇ事をごちゃごちゃと。」 「せ、先輩・・・」 「縛り付けるだぁ?巻き込みたくねぇだぁ?」 彼女・・・”先輩”は、眉根を寄せ、口許を歪めて吐き捨てる。 「俺は俺の好きなようにやるだけだ!お前ぇ等に決められる謂れはねぇんだよっ!」
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