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「ん・・・」
男が目覚めた時、陽は既に高く昇っていた。
カーテンの隙間からの光が眩しい。
「今、何時だ?」
しかし、生憎と部屋の中には時計は無い。
男は”職業”柄、この自宅で寝泊まりする事は少ない。
普段、常時この家で生活しているのは、彼の弟と妹。
その二人は、職も持たず、学校にも通っていない。
先日亡くなった父も、外界を自ら遮断し、独自の愉悦に文字通りどっぷりと浸かっていた。
時間を気にする事も無いその家族にとって、時計は必要性を感じず、むしろその経過を突き付けて来る計器は、煩わしい事この上無い。
故に、この家そのものに時計と言う物を置く事は無いのだ。
「・・・」
ふと、そこに布団に寄り添う金髪の寝顔が目に入った。
(少なくとも上半身は)外見上、美少女である彼女と同室で眠っていた事に小さな狼狽を胸に宿したが、昨夜の事を思い出し
「ああ。そうだった。」
思わず苦笑を漏らす。
無論、二人が”何か”あった訳では無い(そもそも下半身は蛇の少女とでは、その何か、は不可能と思われる)。
彼の妹が、(金髪を含め)全員、同じ部屋で眠る事を提案したのだ。
男はその心情を察した。
妹の胸の裡が、不安と寂寥で満たされているのだ、と。
自分が、いつまで自分のままでいられるのか解らない。
この先、自分の身体にどんな変化が訪れるかすら、知らない。
彼女はせめて、誰かと。
”家族”と、寄り添っていたいのだ。
そうする事で、少しでも”恐怖”を紛らわせていたいのだ。
故に。
その申し出を”あれ”の修理、制作の為に断った弟の正気こそを、彼は疑った。
いや。
弟が”まともではない”事くらい、とうの昔に承知してはいる。
が。
まさか、妹の真剣な眼差しでの訴えよりも、自分の”遊び”を当たり前の様に優先させるとは。
「んあ~・・・?」
金髪が、間の抜けた声と共に、瞼を半開きにし、それを擦った。
「おはよ・・・」
「・・・ああ。」
あの後。
妹の手を取り、妹作詞作曲の珍妙な歌に声を揃えつつ、笑顔で寝室へと共に入ったこの異形の物の方が。
そして、彼女をその姿に変えつつもその命を救った蛇の方が。
生身の筈の弟より、余程”人間”だ・・・
と言う、男の思索は。
「あああー!」
金髪の叫びにより、途切れさせられた。
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