第五章

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「・・・!」 金髪の手が、布団をめくっている。 そこにある”それ”を目撃し、男もまた絶句した。 「・・・何だい?今の声。」 そこに。 青年が顔を覗かせる。 徹夜でもしたのか、眠た気な目を擦りつつ。 そして。 「あ。」 金髪、そして男と同じ物を目に入れ、声を漏らす。 昨日まで。 辛うじて彼等の妹であった、それは。 質量をそのままに、不定形の”何か”と化していた。 半透明の水色の本体。 外周はぐじゅぐじゅと音を立て、微かに蠕動し。 敷き布団を、じわじわ自分と同じ色に染めて行く。 「・・・」 「え?」 「お、おい。」 徐に、青年が”それ”を抱き上げた。 金髪と男が、戸惑いの声を挙げる。 そして。 青年の行き付いた先は、トイレ。 「ま、まさか!」 「うそ・・・でしょ・・・?」 青年は、便器の中に”それ”をぶちまけ。 そのまま水洗レバーを。 「ば、馬鹿野郎おぉぉ!」 「きゃああぁぁ!」 ”それ”は端を便器の縁に引っ掛けるように、暫く水流に抗っていたが。 力尽きたのか、或いは一種の諦観からか。 やがて、排水口に、その姿が消えた。 「お前、何て事を!」 青年は、男の抗議に 「え?だって、汚らしいじゃない。」 事も無気に応え、色の無い瞳を向ける。 「・・・!」 男は。 どん! 側面の壁を強く叩き。 踵を返し、走り去って行った。 「あなた・・・」 「ん?何?」 金髪の、漸く絞り出した言葉。 それに対しても、青年は怪訝な眼差しを向けるのみだ。 「あなたって・・・感情って物が無いの!?」 金髪の今の身体を形作っているのは、”妹”の能力だった。 彼女が消滅した今、金髪の命も風前の灯である。 が。 金髪の脳裡を、胸中を占めているのは。 それとは別の、感情だった。 「何で平気でそんな事が出来るの!?妹でしょう!?」 「ん?」 「どうして!?あなたは・・・!」 「煩いなぁ。」 青年は 「むぐっ!?」 金髪の顔面を左手で掴み 「少し、黙ってて貰えないかなぁ。」 「うぐぐぅ!」 そのまま。 金髪の”尻尾”が、床から離れる高さに、掲げた。 「何だか、気分が悪いんだから。」
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