第五章

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「・・・!」 金髪は、掴まれた指の間から。 青年を見下ろす。 『あ・・・』 そして。 彼の顔を。 その表情を。 『そっか・・・』 それによって、気付いた。 『感情が・・・無い訳じゃないんだ・・・ただ・・・』 青年の掌には、更に力が込められる。 ぐぐぐ、と、指が金髪の肉に食い込む。 『”解らない”だけ、なんだ・・・』 青年は、苛立っている。 それは、普段行使しない、金髪に対する”直接的な暴力”に現れている。 が。 青年自身、自分のその悪感情の出処が、理解出来ていない。 自分の行動。 目の前の現実。 自身の、胸の裡。 その全てが、結び付いていない。 嫌悪。 愛情。 享楽。 欲求。 その大小の区別が付いていない上、その為に優先順位が整理されていない。 小さな嫌悪感の為、大きな愛情の対象を、躊躇無く、破棄する。 その、歪とも言える心の形は。 或いは、先天的な脳の障害かも知れない。 或いは、”何でも思い通りになる”筈の能力を持って生まれた事に、起因するのかも知れない。 或いは。 自分の快楽だけを追求した、父親。 自分の革命に没頭していた、祖父。 誰一人、”彼”を見ていなかった、その状況に。 心が、壊れてしまったのかも、知れない。 『私・・・』 向けられているのは、悪意。 その行動は、自分に対する害意。 しかし。 掌と、顔。 触れ合っている事には、変わり無い。 『何が・・・』 伝わる、体温。 感じる、温もり。 『何が・・・出来るの・・・』 金髪は。 我知らず。 その手を、伸ばしていた。 「・・・」 青年は、不思議と。 それが、抵抗や、自分への攻撃だとは認識しなかった。 『あなたは・・・』 青年の。 頬に添えられる。 金髪の、手。 ぶしゅ! 程無く、金髪の頭部が爆ぜた。 どたりと、首の無い身体が、廊下に落ちる。 「・・・」 青年は。 す、と。 先程まで、金髪の手が触れていた、己の頬を拭う。 「・・・」 その指先に。 ぬるりと。 液体の、感触。 「・・・」 返り血かと思い、それを眼前に曝そうとして、やめた。 彼は、何と無く解かっていた。 その”水”が。 血では無く、そして。 自らの内から湧き出ている物だ、と言う事を。
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