第六章

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「ん~ん~ん~。」 青年は、鼻歌を繰りつつ。 「あー。これは、こっちだな。」 配線を、自身の赴くままに繋ぎ。 「で、ここにこれ、と。」 部品を、組み込む。 彼にとっては独自の論理があってやっている事ではあるが、はっきり言って無根拠、つまり滅茶苦茶だ。 通常なら、そんな事でそこに横たわる”それ”が直る等と言う事は有り得ない。 が。 既にそれは”微かに動き始めている”。 「どうして・・・」 その、適当な作業の手を止めず。 「みんな、いなくなっちゃったのかなぁ。」 ぽつりと。 言葉を落とす。 妹。それに付き従っていたラミアの様な金髪。兄。 先日まで、当たり前に共に暮らしていた者達。 それが、もう、誰も居ない。 彼は、一人きり。 この家で、”それ”の修理に没頭し続けている。 「うん♪」 ”家族”の代わり、と言う訳でも無いだろうが。 「うん♪うん♪」 彼の周りには。 「うん♪うん♪うん♪」 ”あれ”が、増えた。 「・・・」 相も変わらず。 笑みと言える表情で。 全肯定か揶揄かを意味する声を発し。 手足を大袈裟に、踊る様に振り上げて。 「うん♪」 「うん♪うん♪」 「うん♪」 「・・・煩い。」 漏れ出たその言葉に、彼自身が少し驚く。 今迄、無視し続けていた者達に対し。 彼は始めて。 「うん♪」 「うん♪うん♪」 「うん♪」 「煩いんだよお前等っ!」 怒りを、露わにした。 その苛立ち、怒りが。 何処から来るのかも理解せぬまま。 「・・・」 「・・・」 「・・・」 ”あれ”の声と動きが、ぴたりと止まる。 そして。 それらは、一斉に。 彼にくるり、と向き直って。 に、と。 歯茎を剥き出し。 「あ・・・」 それは。 やはり、笑い顔だ。 ただし。 この世界の。 邪気。 悪意。 呪い。 あらゆる、負の感情を。 濃縮したが如くの、それであった。 「ああ。そうか。」 それにより。 彼は、辿り着いた。 「そうだよね。そうなんだ。」 万人に遍く通じる物では無く、彼だけの。 「やっと解かった。そうだったんだね。」 ”真理”に。 「うん♪うん♪うん♪」 「うん♪うん♪うん♪」 それらは、その顔のまま。 一層狂おしく、踊り始めた。
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