第六章

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「・・・おい。」 「はい?何ですか?先輩。」 「お前ぇじゃねーよ。おい。そこの。」 「・・・俺は”そこの”なんて名前じゃねーよ。」 「聞こえてるんなら返事ぐらいしやがれ。」 「・・・何の用だよ。」 「メシ、喰わねーんなら、貰うぞ。」 「ケッ!」 その二は、ただ見詰めるばかりだったパン(廃棄品)を”先輩”に向かって放り、そのまま部屋を出て行った。 「おい!先輩に向かって・・・!」 「・・・やっぱ、あいつ、やりやがったのか。」 その一の抗議を遮り、”先輩”がパンを齧りつつぽつりと呟く。 「・・・」 その一も、うすうすその事は気付いている。 「目的を達成したっつーのに。」 口の中のパンの塊を咀嚼し。 彼女にしては珍しく、残した半分程を包装のビニール袋に戻し。 「ちっとも嬉しそーじゃねーじゃねーか。」 ふん、と一つ鼻息を飛ばし、ごろりと手枕で横になる。 「・・・」 その一が腰を上げ。 出入り口に向かい始め。 「おい。」 それを引き留めるように。 ”先輩”が声を挙げる。 「俺達は、仲間で、同類だ。」 「・・・」 「同時に。」 その一は、振り向かず。 その言葉を、背中で聞く。 「赤の、他人だ。」 「・・・」 一旦、止まっていたその一の足は、その遅れを取り戻そうとするかの如く、早められる。 「・・・赤の、他人、だ。」 取り残された”先輩”は、地に落とすような声で、繰り返す。 まるで。 自分に言い聞かせるように。 「・・・」 その一は。 程無く見付けたその二の、廃ビル屋上に膝を抱えて佇む背中を、物陰から眺めていた。 「言いてぇ事があんならさっさと言え。」 先に言葉を発したのは、その二の方だった。 が。 「・・・」 掛ける言葉等、何一つ無いその一は、身を露わにする以外の事が出来なかった。 「ガキの頃から能力者でよ。」 それなら自分が、と言う訳でも無かろうが。 代わりの様に、その二の方が、語り始めた。 「おまけに、悪の組織に入った俺だ。」 「・・・」 「何人、何十人、傷付けたか知れねぇ。」 「・・・」 「なのによ。」 その二は、膝に深く顔を埋める。 「何で今更・・・」 「・・・」 沈黙の時は、小一時間続いた。
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