第六章

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「・・・誰?」 「玄関の鍵、掛けねーんだな。あんた。」 「あんな戸、鍵掛かってたってその気になれば蹴破れちゃうじゃない?」 「成る程。ところでよ。」 「何?」 「何だよ。それ。」 「かっこいいでしょ。」 そこで、青年は漸く振り向いた。 口には、手元のトマトジュースのパックに挿したストローが咥えられている。 出会った時と同じ、穏やかな笑みに”先輩”の身は総毛立った。 「お父さんが遺した、ロボットだよ。」 ボーリングのピン、スーパーの買い物用の籠、ちくわぶを模した円筒・・・ まるっきり、ガラクタの集まりだ。 それが。 時折、ぎ、ぎぎ、と軋む様な音を立て、関節部分と思しき部位を屈伸している。 「・・・それは?」 ”先輩”は、傍らに大の字に寝転がる人型の物体を目で示す。 筋肉質の太い四肢。 太鼓腹。 全身緑色で、大きな口許からは牙が覗き、頭部には角にしか見えない二本の突起物。 「雷神様。」 「・・・らいじん?」 「巨大ロボットを動かすには、電気が要るじゃない?」 「・・・」 青年の向こう、たった今まで作業をしていたと思われる足元には、”ロボット”の一部に組み込まれた、連太鼓。 成る程、絵姿や想像上の”雷神”が背負っている様な、それだ。 時折、青白い火花がばち、ばちばち、と飛ぶ。 「滅茶苦茶だな。」 ”先輩”は苦笑を禁じ得なかった。 この、寄せ集めの部品も。 その、法則無視な組み様も。 既に起動し始めているそれは、恐らく機械的な作用では無く、彼の能力に拠る物だろう。 にも関わらず、電力を供給する為、能力で”雷神”を作り出して置いて、太鼓を奪う。 支離滅裂、ここに極まれりと言う奴だ。 「ところで、そろそろ僕の質問に答えて貰えないかなぁ。」 「何だっけ。」 「何の用?」 「”俺が誰か”じゃなかったっけ?」 「覚えてるんじゃない。」 「ま、細けぇ事はいいじゃねぇか。」 ”先輩”は。 挑発的な眼差しで青年を睨み。 「俺は、バステリオンの生き残りでな。」 「ふ~ん。」 気の無さそうな青年に向かって。 「バステリオンの首領を殺して、組織を崩壊させた野郎、つまり・・・」 その言葉を、叩き付けた。 「お前の兄貴を殺したのは、俺だ。」
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