第六章

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「あっそう。」 青年は気の無い一言を返し。 どうやら本気で彼女に興味を失ったらしく、くるりと背を向け、再び”作業”に没頭し始めた。 「そんだけか。」 「うん。」 「・・・」 数日前の、始めて会った時であるなら。 彼のこの反応に、寒気を覚えただろう。 肉親の仇を名乗る相手に対し。 自分の質問に答えたらもう用は無い、と言った素振り。 だが。 「あんたの兄貴の死体が挙がった、その夜。」 「・・・」 「ここらで七人程、死人が出たってな。」 「・・・」 「全員、頭がザクロみてぇになって、人間業じゃねぇ有様だったらしいけどよ。」 「そうだよ。」 青年の手は、何時の間にか止まっていた。 「それ、僕がやった。」 「別に訊いちゃいねぇよ。」 「・・・」 ”先輩”のその応えに、軽い嫌悪の眼差しを向ける。 『やっぱ、そうか。』 彼女は、女である。 その、本能と言うべきか。 ”それ”に、気付いた。 『こいつ、赤ん坊と一緒なんだ。』 乳児は。 心身に不快感を感じれば、泣く。 それに拠る結果を、知らぬまま。 結果的に、それで察した親や周囲の大人が対処をしてはくれるが、乳児はその仕組みを知って泣く訳では無い。 ”不快だから泣く”ただ、それだけ。 それで気が済めば、それまでだ。 それに似ている。 ”能力”によって好きな時に好きな物を壊せる彼は、乳児が泣くのと同じように、目に付いた物を、ただ壊す。 それで心のわだかまりが解決したと錯覚する。 「・・・可哀想なヤツだよな、手前ぇは。」 恐らく、それを。 誰一人、”いけない事”だと。 ”そんな事では何一つ終わりはしない”と。 教えてくれる者が、いなかったのだろう。 「どう言う意味?」 青年は立ち上がる。 足元の連太鼓が、ばちばちばち、と激しく火花を散らす。 彼の精神状態と、リンクしているのだと”先輩”は察した。 「そのまんまの意味だよ。」 「止めてくれないかな。そう言う事を言うの。」 ばちばちばち。 「何でだ。」 「・・・」 ばちばちばちばちっ! 「解んねぇんだろ。どうしていいか。」 「やめろ。」 ばちっ! 「可哀想としか言い様が・・・」 「やめろおぉぉ!」 ぼんっ! どおぉぉぉん! 彼の”心”を現す強力な電圧は。 家ごと、周囲を吹き飛ばした。
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