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「・・・」
「せ、先輩!」
彼女がうっすらと開いた瞼、その視界に真っ先に飛び込んで来たのは。
その一の、寄せた顔、だった。
「全く、無茶しやがるぜ。」
その声に瞳を動かせば。
そっぽを向いた、その二の姿。
が、放り出した濡れタオル、少々疲弊した声から察するに、彼もつい先程まで、彼女の看病を必死にしていたようだ。
「あの化け物に、一人で向かっていくだなんて・・・」
「・・・なぁ。」
その、ぶっきら棒な言葉に応えず、彼女は天井を眺めつつ、言葉を繰り出した。
「八目鰻っているだろ?」
「・・・は?」
「あ?」
「あれって、八つも目があるワケじゃねーんだ。知ってるか?」
「・・・先輩?」
その一は、瞬時、気を揉んだ。
突然、頓珍漢な物言いをする”先輩”の正気を疑ったのだ。
一時的な錯乱ならいいが、”先輩”が青年に何をされたのかは解らない。
爆発の音を聞き付け、その現場に向かう途中、路上に倒れていた”先輩”を発見し。
昏睡が一昼夜続いていたのだ。
「気門がな。左右三つずつ目の下に並んでるから、目が八つあると思われて、八目なんて名前が付いた。」
そんなその一の心配を余所に、”先輩”は語り続ける。
「・・・でも、本当は、目は普通に二つだけなんだ。」
「何言ってやがんだよ。大丈夫か?」
その二も、小さな不安が胸に過り、つい声を掛けた。
「そう見えるってだけで、勝手な名前付けられたんじゃ、堪ったもんじゃねーよな。」
その応えの代わりか、”先輩”はひたすらに言葉を継ぎ続ける。
「ただ、人と違う能力を持ってたり、価値観を持ってたりするだけでさ。」
「・・・」
「・・・」
「化け物だとか、悪だとか・・・」
ふ、と。
彼女の目が伏せられる。
「・・・死神だとか。」
「・・・先輩。」
その一は。
そして。
「・・・」
その二も。
彼女が何を言いたいのか。
それに至って、理解した。
「でも、違うんだ。ただ、人間なんだよ。」
「・・・」
「・・・」
「可笑しい事は可笑しい、悲しい事は悲しい、ただの人間だ。」
伏せた眼差しが上げられ。
中空を見詰める。
そこにある、彼女にしか見えない、何かに定められて。
「俺達も・・・あいつも、な。」
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