前章

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「ははは。」 我ながら、渇いた笑いだと彼女は思う。 何故笑ってしまっているのか、理由を問われても言語化は難しい。 いや、出来ない。 が、”解らない”のでは無い。 自分の場違いな表情を、それと承知した上で、今現在、彼女が顔に浮かべるのは嘆きでも怒りでも無く、やはり”笑み”だった。 「あほっぽい。」 悲鳴。 地鳴り。 炸裂の音。 言うなれば、嵐と落雷、そして地震と隕石落下が同時に訪れている様な状況。 ”結果”もまた、同様の物をもたらすと思われる。 にも関わらず。 逃げ惑う人々の表情は、恐らくそれとは違っているのだろう。 ”天災”であれば、”祈り”しか術が無い物を。 ”人災”である以上、それがより理不尽な物として。 ある者は回避の道を探り。 ある者は怒りの声を挙げ。 ある者は対策の法を求め。 『無駄な事だってのに。』 あの”死神”と呼ばれた”能力者”の破壊活動は。 例えるなら、道を行く子供が、たまたま目について拾った小枝を、意味も無く振り回す行為に似ている。 そう。 ”特に深い意味は無い”。 だからこそ、理詰めで止めさせる事は出来ないし、”目的”自体が無いから”キリ”と言う物も無く徹底するし、ましてや対抗手段等、存在する筈が無い。 天災と、何が違うと言うのか。 一際大きな爆裂音。 十を超えるビルが一撃で吹き飛ぶ。 恐らく、数百人の犠牲者が出ただろう。 それが、絶えず繰り返されている。 ”世界”の崩壊は、目前だ。 「・・・止まらない、ですよね。」 彼女の背後の。 かつて所属していた組織に於いて後輩だった男の一人が、小さく呟く。 「止められない、だろ。」 もう一人が、箱に残った最後の一本の煙草をくゆらせながら、諦観と嘲笑を交えた声に肩を震わせながら語る。 「・・・」 彼女は口を開いた。 ”笑い”が爆発しそうだ。 そう。 彼女は、今、当に発する、己の言葉をこそ、笑っているのだった。 そして。 その言葉を期待しているであろう。 背後の馬鹿者、二人の為にも。
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