終章

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「ふんふんふ~ん。」 青年は鼻歌交じりに、地面に落書きの様な円陣を描いている。 手元に筆記用具が無い為、たまたま持っていたトマトジュースを使用して。 それは、彼にとっての”魔法陣”である。 本来であるなら、彼が能力を行使する際、特別な儀式や呪法、魔術、科学的機器の助けは必要無い。 が、細かいコントロールが必要な、複雑な結果を促す為に、彼は”自己暗示”として一定の作法を経る。 無論、彼の知識に正しいそれがある訳でも無く、自己流と言う名の出鱈目な物ではあるが。 「待っててね、兄さん。」 鼻歌の合間。 ぽつりと呟きが漏れ出る。 「今、蘇らせてあげるから。」 そう。 彼の目論見は、死んだ筈の兄の肉体の再構成、それによる復活である。 あらゆる物を壊し、あらゆる物を創造出来る、彼の”ちくわ”。 ならば、死者を生き返らせる事も可能な筈だと、彼はそう考えたのだ。 「兄さんの後には・・・」 妹。金髪。 ”家族”を取り戻す。 取り戻せる。 「ふふん。ふ~ん。」 それを思うと、心が弾む。 「・・・あ。」 ”魔法陣”の完成と同時に。 その中央に、ゆらゆらと靄が立ち昇る。 「ああ。」 それは、徐々に形を成し。 そして。 「兄さん・・・!」 彼の兄の姿が、現れた。 「やあ。気分はどう?」 快哉を叫びたい程の歓喜の中。 彼は、兄に声を掛けて見る。 が。 「・・・兄さん?」 それは、虚ろな眼差しを宙に向けたまま。 一応、彼の声に反応して視線は向ける物の。 その眼に、光は無い。 「・・・」 それによって。 「・・・そっか。」 彼は、気付いた。 壊れた物は、元に戻せはしない。 例え治す事が出来たとしても。 それは”元あった物を材料とした新しい同じ形をした物”に過ぎない。 「あはは。」 まして、”それ”は。 彼が”造った”だけの、人形だ。 「あははは。」 微かに希望の光が宿っていた彼の胸中は。 漆黒の闇に、彩られた。 「あはははははは!」 そして。 彼の背後に。 彼の能力に呼応し。 浮かび上がりつつある、影。 「あはははははははははは!」 それは。 ガラクタを寄せ集め。 彼の周りを踊り狂っていた”あれ”の顔を持つ。 父の形見の、巨大なロボット。 ”絶望”の、象徴。
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