終章

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「・・・」 風が、髪を翻弄する。 それに抗うが如く、強い眼差しで。 ”先輩”は、そこから見える人が作った世界を、睥睨する。 彼女らが根城にしているビルの屋上。 「先輩。」 「・・・」 背後からの声に、無言の応えを返す。 「ヤツを・・・どうするつもりなんですか?」 「さぁな。」 「さぁな、って・・・」 「でも、何とかする。」 彼女の口許には。 その、為す術の無い言葉とは裏腹に。 「そう。俺がやるさ。」 笑みが、浮かんでいる。 「それが・・・母親の、義務だろ?」 「え・・・?」 暫く、風の音以外の、一切が消えた。 言われて見れば。 若くは見える物の、その一にも。 ”先輩”の実年齢は、聞かされていない。 ”バステリオン”に入った経緯も。 家族の有無も。 何一つ・・・ やがて。 突然。 どぉん! 「な、何だ!?」 耳劈(つんざ)く炸裂音が、その一の思考を遮った。 「あれは・・・」 ”先輩”は、”それ”を、目を見開いて凝視する。 流線型のフォルム。 ガラクタを張り付けた様な身体。 射出する、ちくわぶ型のミサイル。 「あははは。」 青年は、その前方表層上にしつらえた座で、笑っている。 「ねぇ。見てよ兄さん。」 その、左隣には。 先程、”彼自身が創造した”、兄。 それが、十字架に掛けられたように、張り付けてある。 「一発で、あんなになっちゃってるよ。」 応えの返らない言葉。 それでも。 自分の力によって、右往左往する、人間達。 「あははははは。」 自分の行動に、反応してくれるギャラリー。 それで彼は、自分の存在を認識して貰っている、と言う愉悦を得る。 「さ、どんどん行こうよ。」 ばちばちばち。 右隣に兄と同じ姿勢に設えた雷神が、火花を散らす。 それが、”動力源”である。 「ほら!みんな、逃げて!戦って!叫んで!」 彼の瞳は、妖し気に輝く。 「あははははははは!あははははははは!」 次々、壊れ行く。 抗う事は、誰にも出来ない。 全ては青年の、思うが儘。 「あははははははは!あははは・・・」 一瞬。 彼の頬に感じた、温もり。 だが。 「あははははははははははははは!」 次の瞬間には、それを忘れた。
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