第1章

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 歴史ある国家がひとつの終焉を迎えた。  南方皇国と呼ばれたその国は、建国より二百年もの長きに渡って宿敵北方帝国との戦争に明け暮れていたのだが、とうとう攻め滅ぼされてしまったのだ。  温暖な気候のために土地は豊かだったが、鉄鉱山が枯渇したことによって装備が整えられず、それによって戦で負けることが多かった。それでも北方帝国の内紛で命を長らえ、皇国歴にして百九十九年まで続いた。  事態が変わったのは、北方帝国に鮮血帝が現れてからだ。  北方帝国十三代目の皇帝として即位した彼は、祝賀会に訪れた貴族を全員処刑した。それから、皇族を必要なまでに探し当てては、その首を刎ねた。反対する者を血祭りにあげいき、わずか二年で国内を締め上げてしまった。  税率を今までの三倍に上げて集めた金は、すべて軍の増強に費やし、ついに南方帝国への親征を始めた。  北方帝国が総力を挙げれば、南方皇国に適う道理はない。  鮮血帝の軍事的才能もあってか、南方帝国はわずか四か月でその歴史に幕を下ろすこととなった。  さて、北方帝国の西に国境を接するテロシア大公国では、南方皇国の滅亡という事態を戦慄をもって迎えていた。  これは帝国に潜ませた間諜からの情報で、まず誤りだということはない。  小国故に特殊な任務を受け持つ人材は優秀な者を揃えており、彼らの情報はこれまで何度も国を救ってきたのだ。  しかし、今回ばかりは耳を疑いたくもなる。 「むう、これは早すぎるのではないか」 「あと一年は粘ると踏んでいたのですがね。北が強かったのか、はたまた南が弱かったか」 「北が強かったのであろう。鮮血帝は国庫を空にするまで武器を造らせたという話じゃ。大方、投石器でも用意したに違いない」  報告を受けて話し合うのは、ムウリ大公と宰相ピノ・ケラシムの二人。  彼らは二十年近くテロシア大公国を支えてきた国の中心であり、この度の事態への対応を決めるために会談していた。  テロシア大公国はその名が示す通り、大公家によって代々の統治がされてきた。百九十年前に北方帝国から独立して以来、東に北方帝国、西にパオラ王国と大国に挟まれてきた経緯がある。  これまでは東が来れば西を頼り、西が来れば東を頼りと生き延びてきた。  しかし、北方帝国が二百年に渡る戦争を終結させたとあっては、東西の力関係が崩れてしまう。
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