手を伸ばせば

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ただの自己満足。 俺の勘違いだったのかも知れない。 けど、莉央を抱き締めた時。 莉央を今度こそ、絶対に守ると思ったのと同時に。 もう、莉央を泣かせたくないと思った。 「…そうだな」 やっと、啓に言葉を返す。 俺の返事に啓は、フッと笑った。 あえて「好き」とは言わなかった。 何か。 照れくさいから。 ふと、莉央の方へ目をやる。 すると。 たまたま、莉央もこっちを見ていたのか目があった。 「伊織、はい」 俺の傍にやって来て、手に何かを握らせる。 「なに?」 「いーから!!」 そのまま、莉央は自分の席へと戻って行く。 掌を開くと。 小さな紙切れがあった。 そこには莉央らしい文章が並べてあった。 "伊織。ありがとう。元気出た!" 相変わらず大切なことは、口には出さない莉央。 照れくさくて、大切なことすら言えない俺。 本当に、俺と莉央は似ている。 だけど。 いつか、ちゃんと気持ちは言おうと思う。 言わないと後悔しそうだから。 "莉央が好き"って。 気付かないうちに芽吹いていた小さな花のような想い。
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