手を伸ばせば

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#何気ない ◇◇◇ 「莉央ー」 今日も窓から莉央の名前を呼んで莉央を起こす。 呼んでもまるっきり返事が無い。 これも何回目なのか最初は、数えていたけどもう止めた。 そして、莉央の家に上がり込んで起こしに行く。 「莉央」 2回目でやっと「ん~…」と布団の中でもがく。 「はよ」 「伊織~…?…ちょっとだけ待って……」 「無理」 「ぎゃっ」 無理矢理、布団を剥ぐと莉央は変な声をあげる。 それでも女子か。 と、突っ込みたくなる。 そんな中でフッと笑いそうになる。 「遅刻するぞ」 見事にベッドから転げ落ちた莉央を見て、笑いが止まらなくなった。 「何で笑うのよ!?伊織のせいでしょ!?」 「俺は起こしただけじゃん」 歯向かう莉央に向かって、更に笑ってしまう。 「蹴落としたのは伊織じゃんか!!もうあっちで待ってて!!」 ぐいぐいと背中を押されて、部屋から追い出される。 俺と莉央が出会ったのは、中2の暑い暑い夏休み真っ盛りの時期だった。 『ねえ!何やってるの?』 夕方の6時頃。 俺がいつもの河原で剣道の素振りをしている時に莉央がいきなり話しかけてきた。 見たことないヤツだったし、話すつもりなんてなかった。 『………』 『あ?もしかして野球!?』 (……は?) 気が付くと、俺は莉央に答えていた。 『剣道だよ!!』 しまった、と思った。 何でこんなヤツの言葉に返事をしたんだ…って。 すると。 莉央はケラケラ笑いだした。
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