手を伸ばせば

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『知ってるよ!それくらい』 『……じゃあ何で間違えるんだよ』 『だってさ、このままだったら答えてくれないと思って』 『……』 当然かのように答える莉央に対して俺は、素振りを続けた。 図星で、恥ずかしくなったから。 『また見に来てもいい?』 その言葉に反応して、思わず手を止めてしまった。 『……何で』 『理由は無いけど…、見てたいから』 『見ても何にもねーよ』 『いいの』 あれから莉央は毎日、俺の素振りを見に来るようになった。 そして。 夏休みの最後の日。 莉央は、相変わらず俺の素振りを見て普通に帰って行ったから。 "バイバイ"くらい言えば良かった。 って思ってたけど、そんなことは無駄だった。 それは、莉央が転入してきたから。 『星野莉央です………あ』 自己紹介の途中に『素振りの人だ』なんて大声を出して。 周りから笑い声が聞こえてきたから、その時は一瞬だけ莉央を軽く呪った。 これが俺と莉央の出会いだった。 俺が莉央を起こしに行くようになったのは、たまたま莉央が家が俺の家の近くだったから。 理由は、単純。 中3からだから、今年で4年目。 「お待たせ!」 やっと玄関から出てくる莉央。 お気に入りの曲を5回リピートするくらい遅かった。 「かなり待った」 「ごめんっ」 お気楽に平謝りしながら俺の自転車の荷台に乗る。 「早く乗れって」 「…はい、完了」 しっかり俺の腰に腕を回す。 だからといって。 莉央が俺に恋愛感情を抱いているワケではないと思う。 俺だって無い。 ………多分。
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