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何時ものように脳内で一人で会話を繰り広げながら、歩きなれた商店街のように出店が立ち並ぶ道を歩いていると、肩がなにかにぶつかる。
「おっと、」
「あっ、すみませ……」
「こっちこそよそ見してて悪かったわ!」
そう軽く謝ると、その男はまた人混みに紛れていく。
そう、こちらを認識し、更には会話を返してきた。
「おっと!坊や立ち止まるなら端っこに行きなさい危ないわよ!」
「えっ、あ、えっ……?!」
まったくもう!と、文句を垂れながらその主婦も道を進む。
なんで、いつもは、こんなこと有り得ないはずなのに。
先程はぶつかったから気付いたって言える。でも今回はぶつかる前に気づかれた。
「い、いや、まさか、まさかな……、は、はは、お、俺夢でも見てんのかなーーー!!やだなーー!!」
「お、いつもの兄ちゃんじゃねえかどうした大声出して……、おーい?聞いてんのか?」
「ヒャッフゥ!!」
腕を捕まれ飛び跳ねながら振り返れば、何度も通っていた肉屋の兄さんが不思議そうな顔をしてこちらを見てくる。
「おーい??もっしもーーし?」
「あ、えっ、なんで掴め、あれ……?」
混乱しすぎて青白くなっていく顔に、その肉屋の兄さんも気付いたのか腕を引いて人混みから外れ、人の少ない場所へ移動してくれる。
「顔色わりいぞアンタ、大丈夫か?」
額に手を当てられ、熱は無いか……とつぶやく。
おかしい、どうしてここまで視認できているんだ。
これが普通でも、俺にとっては異常事態であった。
原因を探してもわからない、景色に溶け込もうとしても離れることは出来ない。
それ以上に先程からチラチラと人の視線まで集めている。
目が、沢山の目が俺を捉え、見据えている。
「お、おい、本当に大丈夫か?」
「ヒッ……、あ、ぅ……。」
ついに、その兄さんの目をまっすぐ見てしまう。
「お、おい?!」
思考のオーバーヒートに、慣れない視線による恐怖で、ついに目の前が真っ暗になりその場へと、倒れ込んでしまった。
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