第1章

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この時ほど、自分の優柔不断さを憎んだことはなかった。あたり一面に広がる、真っ白な雪の世界が目の前に広がっている。写真や映像で見るだけならとても綺麗だと思っただろうけれど、俺の現状を考えると綺麗なんて、悠長な気持ちになれない。ガチガチと歯を鳴らして、吹き荒れる風に身を震わせた。 「おーーーーいっ!! 俺はここだぁ!! 誰かいないのか!?」 俺の声は吹き荒れる風にかき消される。吹雪は収まることなく、さらにヒドくなった。ガチガチと歯を鳴らしながらザクザクと雪山を歩いていく。 「くそっ!! やっぱり山登りなんて断ればよかった。なんで好き好んで雪の山になんて登らなきゃならないだよ」 優柔不断、俺は子供の頃から、頼まれ事をされると断れなかった。相手を困らせてしまうことより、どうして断るんだよという雰囲気に耐えきれず、イヤでも本心を隠して、うんと頷いた。そういった性格は大人になるにつれて、植物がビッシリと根をはるようなっていく。 周りの連中も俺がこんな性格だと知って、面倒なことを押し付けられた。この雪山登山だってそうだ。山登りが趣味の社長に付き合って、山登りすることになったとき、白羽の矢がたったのは俺だ。 「くそっ、行きたいんだったら一人で行けばいいんだ。俺も道ずれにしやがって」 雪山は天候が変化しやすく危ないということは聞いていたし、社長や他のメンバーに頼っていればと安心と油断したことが間違いだっただろう。 遭難するなんて思わなかった。いきなり風が強くなったと思ったときには社長も他のメンバーもいなかった。わけもわからずに歩き周り、道がわからなくなったときには遭難を自覚してから何時間たっただろうか。もう、時計を見る余裕も無くして歩き回る。 遭難したときには歩き回らずにその場に止まれと何かの本で読んだけれど、その場に止まっていても何かが変わるわけがないと思うと、止まることはできない。助けを求めて足を動かす。ガチガチと震えの止まらない腕を擦っていないと凍えて死にそうだ。 「……………………誰か、助けてくれよ。俺は、こんな場所で死にたくないんだ」 叫びだしたくなる気持ちを押し殺し、ザクザクと雪山を歩く、フゥーフゥーと荒い呼吸を繰り返した。立ち止まったら死ぬ。背後から迫る死から逃げるように足を動かす。 「なんだ……!? 宿?」 ザクザクと足を動かしたさきには、雪山のポツンと灯る光を見つめた。
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