第1章

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ご馳走、お酒、女に踊り、さっきまで雪山で遭難していたことを忘れてしまいそうだった。 「さぁさぁ、佐々木様、これだけじゃ序の口だよ。ひさしぶりの客なんだ。たんまり呑んで、食ってもらおうじゃない」 リーダー格の女がケラケラと笑いながらさらに酒を呑めと進めてくる。周りの女達も呑め呑めとはやし立てる。断れる雰囲気じゃなかった。 もしも彼女らを怒らせてしまったら、極寒の雪山に放り出されてしまいそうで、とにかく俺は酒を呑み続けて、しばらくたった頃、宴会がおひらきになりオユキがまゆをハの字にして俺の背中を撫でていた。 「すみません。姉様達もひさしぶりのお客様だからはしゃいでみたいで」 「いや、俺も呑み過ぎたのが悪いんだ。君が気にする必要はない」 ウエッと気持ち悪さからこみ上げてくる、吐き気を堪えながら言う。こういった呑み会ではいつも同僚や上司に酒を呑まされるが、いつまでたっても慣れることはない。 「嫌なことを嫌だと断れない俺が悪いんだ」 「そんなに自分を卑下しないでください。佐々木様」 ニッコリと微笑みを浮かべる、オユキに俺はそっと視線を外した。彼女の手が背中がゆっくりと上下する。氷のように冷たくてとても心地いい。 「そういえば客がひさしぶりと言っていたが、繁盛してないのか?」 「いいえ、繁盛がしてないわけじゃないんですけれど、ここらの雪山にまつわる怪談の舞台になっているんです」 「とある怪談?」 「怪談、雪山に登場し、伝承される妖怪、雪女です。その昔、この雪山に二人っきりで暮らしている親子がいたらしいんです」 「親子が? よくこんな山に住めていたな」 遭難しそうになった俺には、ここで住もうとも思えない。 「まぁ、彼らは雪山育ちでしたから、ほとんど庭みたいなものでしたからね。でも、慣れていたからこそ、油断してしまったです」 真夜中の薄暗い部屋の中で怪談を語る、オユキは怪しくも綺麗だった。 「親が食料を取りに行ったまま、帰りませんでした。子は何日も、何日も待ちましたが、いつまでたっても帰りません。子もついに耐えきれなくなり、親を探すため家を出ましたが、子も親を探すあまり焦ってしまいました。吹雪く雪山の中で親を探してさまよい歩き、とうとう力尽き凍死してしまいます。親を探す、子は自分の死んだことに気づかず、雪山を登山中の者を襲う、雪女になりましたとさ、おしまい。どうでしたか?
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