第1章

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歯が鳴り始めても、オユキの手は手放さない。雪のように冷たい手を握りっているだけいい。 「佐々木様、無理をしないでください。このような軽装で外を出歩くなど危険です。皆が来るでしょうから」 「だが。それだと姉を殺した女がやってくるかもしれないんだぞ。少しでも遠く逃げるんだ」 「…………そう、ですね」 「そうだ。何か楽しい話をしよう。な? あんなの見せられた後じゃ気分は最悪かもしれないが、楽しい気持ちになることが大切だ」 と言ってみたが、都合よく、楽しい話や元気になる言葉は思いつかない。 「う。すまん、俺はこういうの苦手だったんだ」 「いいえ、無理をしなくていいですよ。私はこうしているだけで安心できます」 手を繋いで、オユキが微笑む。 「俺みたいなゴツゴツした手なんかでいいのか?」 「ゴツゴツなんてとんでもない。私は好きです。、佐々木様はきっとスゴい人なのだと思います」 「スゴくなんかない。いつも上司にペコペコ、頭を下げるだけのダメ男だよ」 「人の魅力というのは、本人よりも他人が気づくものですよ。佐々木様。佐々木様はきっと隠れた魅力があるのだと思います」 薄暗い雪山を二人で手を繋いで歩いていく。魅力。魅力なんて俺にはないよと言うとオユキはクスクスと笑い。 「遠慮しなくていいのに、佐々木様は謙虚なのですね」 「そうか」 うんと頷いた。 「そうか、そうかもしれないな」 といつまでも、こんな時間が続けばいいという俺の願いは、真っ赤に染まった雪のせいで遮られた。 「つっ!?」 ドサッと姉の死体が雪に落とされ、傷口からドクドクと血が流れて、雪を揺らし、日本刀を持った少女が姿を表した。 「なぜだ。なぜ、彼女達を殺したんだ? 答えろ!!」 風呂と出会った少女は、ほとんど表情を変えずに彼女は答えた。 「それは呪いだから、斬らなければならない。放置すれば人に害をなす危険な存在。邪魔しないで」 「この子も斬るのか」 「もちろん」 「そんなの君が勝手に決めてるだけだろ」 事情は何も知らないが、むざむざ殺されるのを無視はできない。 「なら、これを見ても同じこと言えるの?」 ドンッと凍死した二人の男の死体を少女が投げた。 「社長」 俺とはぐれた、登山メンバーだった。 「この人達は、貴方と同じように招き入れられて、お酒で酔い潰して殺してた。何人も、何人も、それでも同じこと言えるの?」
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