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最後の石碑の前で、誰かが項垂れていた。
頭部をはじめ身体のあちこちに白い包帯が巻かれ、松葉杖をつく彼の右足は膝の辺りから先が無くなっていた。
まだ体ができあがっていないのだろう、後ろ姿にもどこかあどけない印象が残っている。
つんつんと逆立った三嶋系の青い髪には、見覚えがあった。
「来ていたのか、アギト新兵」
玉依守里(たまより マモリ)少佐が、その背中に声を掛けた。
声音こそいつも通りだったが、彼女の右手は彼への気遣いを隠すように、くるくるとポニーテールを弄っている。
アギト新兵と呼ばれた少年はしかし、上官の呼びかけにも応える素振りを見せなかった。
マモリ少佐は苦笑を浮かべて彼の隣に並ぶと、手に持った花束を石碑の前に放った。
「生き残ってしまったな」
アギト新兵は応えない。
「生き残る事しかできなかった……」
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