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息を呑む。幾重にも重なる傷は前腕部を占め、盛り上がり引きつっている。だが、大半は痕のようで血が流れている真新しいものは手首のものだけだ。真っ赤な鮮血。どろりと、醜い傷跡の上を滑っていく。
体が震える。冷えたからだろうか。
手を握ると痛みが走る。今まで気付かなかったのが嘘のように、ズキズキと痛みを訴える。血が流れる。止まらない。
ノイズ。ザザザ、とノイズが走る。
「エヴァさん、どうかしましたか……っ血が出てる!?」
「あ、なんで……」
「大丈夫です、今治癒しますから」
言われるがままにされるエヴァは、じっと手首の傷を凝視する。盛り上がる傷跡、その上に重なる痕のせいで醜い。不思議なことに、右腕には傷跡はない。まっさらで白い肌のままだ。
「……エヴァさん」
ルカの声が遠い。
この傷は、なんだろう。まるで、自分が、自分が――
頭にノイズが走る。ザザザ、と音がする。手首の痛みが、頭に移ったみたいに痛い。痛い。
「エヴァさん、大丈夫ですか。落ち着いて、深呼吸してみてください」
彼の言葉に、エヴァはうなずき、言われたとおりに深呼吸をしてみる。その間にも、離れない。この傷は、この傷をつけた張本人は、誰だろう。何を思って、こんな痕を残したのだろう。そんな、疑問が離れない。
胸を震わせるこの感情は何だろう。
不安になる。わからないことに、自分という存在がぐらぐらと揺らぐ。
「エヴァさん」
すぐ近くで、優しい声音で名前を呼ばれた。エヴァ、彼に付けてもらった今の名前。顔をあげる。そこには、優しい笑みを湛えてエヴァを覗き込むルカがいた。
「ひとまずギルドに向かいましょう。ここにいると風邪を引いてしまいます」
ルカの言葉に、エヴァは不安を呑み込んでうなずく他なかった。
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