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「(公爵の屋敷……それに若い娘の行方不明? なんか、不穏だな……)」
ひそひそと潜められた話し声は止まらない。好奇心からか、はたまた不安感からか、親しいモノに耳打ちする姿は形容しがたい感情に支配されているように見える。
「(……怖い。なんだろう。私、この感じ好きじゃない……)」
治まったはずの震えが微かに戻ってきている。
「エヴァさん、あれがそうですよ」
「えっ……」
苦しくなってくる心に差したルカの声にエヴァはいつの間にか俯いていた顔をあげる。ルカが指し示したのは、まだ少し距離があるにもかかわらず大きいことが分かる建物だった。
「あれが、ギルドですか」
「はい。僕が登録してるギルドの支部ですよ。本部は王都にあります」
「……大きいんですね」
「あそこで雇用されるのは冒険者とかなんですけどね。意外と何でも屋になっていますし……部署とかありますし」
そう言って笑うルカは、なんだか遠い目をしている。乾いた笑みに、エヴァはまたも首をかしげる。何か嫌なことを思い出したのだろうか。
そんな心配そうなエヴァの視線に気付いたルカは、コホンと一つ咳払いを落とし、「なんでもありません、仲間の醜態を思い出しただけです」と微笑んで弁明する。それ以上追及する必要性を感じなかったエヴァは、曖昧にうなずいて再びギルドに視線を戻した。
どう表わしたらいいのだろうか。白い壁、均一にある窓、大きいとはいえ階数は数えた限り三階くらいはあるだろう。背の低い建物ばかりだからか、それだけでも大きく見えるのだろうか。それにしても、横に大きい。
そんな、少し建物に集中しすぎていたのだろう。気付いたときには遅かった。
「いたっ」
「エヴァさんっ」
足を踏まれた。ガッツリと、強く。エヴァは思わず止まってしまい、しゃがみ込む。踏まれてしまった足は赤くなっていて、擦り傷のように細かな傷ができてしまっていた。
「エヴァさん、ギルド近くになるとヒトの往来も多くなります。さすがに裸足のままだと危ないので、断るのはなしですよ」
「……はい」
目の前でしゃがみ、背中を見せるルカの無言の「乗れ」の言葉にエヴァは渋々従う。森の中では我が儘を通したのだ、ここは従おうと思った。しかし、不本意と顔に書かれているのには、エヴァは気付かない。ルカもわざわざ口にしなかった。
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