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「……う」
軽く身動ぐとベッドの足に肘を強かにぶつける。小さく悲鳴を上げるが、誰もいないため何も言われない。
頭を少し掻いて立ち上がりシャツを脱ぐ。それを床に落とした。
リクトの細身の身体には、無数の傷が走っている。見ているだけで痛そうだが、彼自身は全く気にしていないようだ。その証拠に、腹にある傷を何の感情もこもっていない目で見つめながら、人差し指でなぞっている。
次に、左腕へ視線を落とす。肘裏から手首に掛けてくっきりと切り傷跡が残っていた。ハサミで切った物とも、カッターナイフで切った物とも違う。
肘側の方の傷跡が太く、手首に近付くにつれて細くなっている。どの刃物で切ったのか分からないが、その傷は明らかに自分で付けたものではない。
リクトはその傷跡を見つめる。その瞬間、何かを思い出したのか、眉を潜めて唇を噛む。無意識にか、左手は肌が白く変色する程握り締め、腕はかたかたと震えている。
口元でぶちりと肉が裂ける音がして、顎から血が滴る。息は荒くなり、右手で髪を掻き乱して、頬には涙が一筋伝う。
目を固く閉じ、左手も髪を乱す。そのまま荒い息を無理矢理飲み込み、それからゆっくり、深く吐き出す。
「……イズミ?」
息が整った頃、壁に立て掛けている鎌に目をやる。だがそこには鎌以外何もない。
「…………」
左腕で頬と口元を乱暴に拭い、右手でベルトを引き抜く。それをベッドへ放り投げると、すぐ向かいにある扉を開けて中へ入っていった。
少しの静寂の後、そこから水音が聞こえてきた。そこは浴室だった。
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