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頭から熱い雨を浴びて息を吐く。髪が顔に張り付き、物憂げな表情を浮かべるリクトの顔をより一層際立たせていた。
「……吐きそう……」
目の前の鏡に右手を突き、口元を左手で覆う。熱い雫が肌を絶え間なく叩く。排水溝へ流れていく水は透明ではなく、少し赤く染まっていた。
「見なきゃ、よかったな」
先程左腕の傷跡を見たことに対しての後悔の言葉。言ったところで過去は変えられない。それはリクトも重々承知しているのだが、彼の口は勝手に動いた。
虚ろな眼差しで赤い水を見つめる。しばしぼんやりと床に視線を落とした後、今度は自分の身体を見つめる。
なるべく左腕を見ないようにしながら、傷の一つ一つを左手でなぞっていく。どの傷が湯を赤く染めているのかが分からない。
リクトの指先が左肩の傷に触れる。感触としては他の傷と変わらないのだが、そこの水気を払うと、すぐに赤い液体が肩を滲ませた。
「ここ、か」
鏡越しに傷を見つめる。湯が傷口を叩くが、痛みはない。小さく息を吐き、目をゆっくり閉じる。頭から湯を浴びながら、その湯が床を叩く音を聞きながら、静かにその場に佇む。身体がじわりと温まるのを感じ、リクトは僅かに目を開ける。
今度はため息にも似た吐息を吐き出す。そして今まで休みなく湯を吐き出し続けていたシャワーを止めた。
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