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板張りの廊下。木造建築にも見えるその廊下は、どこまでも長く続き、所々で枝分かれしている。またその途中、左右に装飾のない簡素な木製の扉と、鈍色の燭台とそれに垂直に立つ蝋燭が幾つも交互に並んでいる。
そこを歩くのは黒い男。少し痩せているのか、服で多少分からないが、普通の男よりは細い身体。背はだいたい百七十か、それより高いだろうか。歳は、フードを目深に被っているため分からない。
上着から下衣、靴まで全て黒い彼は、目的があるのかないのか分からない足取りでただただ廊下を歩く。音はしない。
「おい」
黒い男がぶらぶらと歩いていると、背後から呼び掛けられた。彼がゆっくり振り向く。そこにはファイルを小脇に抱えた仏頂面の女が立っていた。
黒いスーツに青いネクタイ。細い足の線を目立たせる隙のない黒い下衣。青み掛かった黒く長い髪の毛を後ろで纏め、瞳は光の加減では赤にも見える。強い女のような容姿。
彼女は目を細めて眉を寄せている。その姿は最早この建物内で知らない者はいなかった。
男は彼女の姿を確認すると深々と頭を下げた。
「おはようございますユイ支部長。……上官と呼んだ方がよろしいでしょうか?」
「そんなことはどうでもいい。リクト。貴様はなぜそんな格好をしている」
眉を潜めて長岡ユイは彼を睨み付けた。――否、彼の格好を睨んだ。
改めて言うが、彼は真っ黒なフード付きのパーカーを着ている。それだけならユイの目に止まることなど無いのだが、今の彼はフードを深く被って口元以外を隠している。
闇を象徴するかのような彼は僅かに首を傾げる。神谷リクトは、普段から黒いフードを目深に被っている。まさに死神らしいその姿はユイの次程に目立っていた。
「室内でフードを被るな。常識だろう」
そう文句を言いながらユイが背伸びをしてリクトのフードを鷲掴んで取り払う。フードの下からは、脱がせた時に生まれた風でふわりと乱れる漆黒の髪の毛と、中学生にも見えそうな、幼さの残る顔が現れた。髪と同じ色の瞳は、感情を灯さずにユイを見つめている。
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