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「死人に常識なんてあるんですか。それは初めて知りましたね」  大きな欠伸をしながらそう言う少年に、ユイはわなわなと拳を震わせた。 「貴様は……!!」  恨みをたっぷり込めて睨み付けると、睨み付けられた方は軽く肩を竦める。 「ユイ先輩怖いですね。あまり怒ると肌に悪いですよ」  一片の感情すらも現れない顔で揶揄うように言う。それがユイの神経を更に逆撫でする。どうにか怒鳴りたい程の怒りを押し留め、 「殴られたいか貴様」  凄みを効かせてリクトを睨む。すると彼はもう一度肩を竦めてみせた。 「殴られるのはごめんです。では、俺は用事があるんでこれで」  先程の歩き方の所為で、何処に何の用事があるのか疑いたくなる。しかし淡々と言ってのけたリクトは再びフードを目深に被り直した。そして彼がその場を立ち去ろうとした時、 「待て」  ユイが呼び止める。振り向くと彼女はまだ仏頂面でいた。しかし先程の、リクトに向けられた不満そうな仏頂面とは違うものだった。その仏頂面の違いなんてものが分かるのは、こうして揶揄うような言葉を交わし合う彼くらいしかいないだろうが。 「何か?」  フードを被ったままユイを見ると、彼女はファイルを開く。そのままリクトが眺めていると、彼女は一枚の紙を取り出した。少し上へずれたフードの隙間から覗く漆黒の双眸が僅かに細められる。 「……仕事ですか」  明らかに面倒くさそうな表情を浮かべているが、ユイにそれが見えたのは一瞬だけだった。リクトがすぐフードを深く被り直し、もう一度確認する時間もなく彼の顔は隠されてしまった。 ――よくそんなで色々な物が見えるな。  内心でそう思いながらリクトを睨み付けるが、彼はやはり無反応だった。半ば押し付けるように用紙をリクトへ渡す。
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