『人が消える』

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始めに、この胡散臭い探偵は追川 明(オイカワ アキラ)。 名刺に書かれていた追川探偵事務所に所属する探偵兼オーナーらしい。 ボッサボサのパーマがかかった髪と気だるげな目、季節外れのトレンチコートが印象に残る人物だ。 年齢は、31歳。彼女は、募集中など聞いてもいないことを勝手に話していた。 事務所は、駅から徒歩で十五分。オフィスビルが並ぶ、町の中心部から切り離されたような、古い鉄筋コンクリートのビルの三階にあった。 一人で切り盛りしているようで事務所に案内された私達は部屋の散らかり具合に思わず顔を顰めた。 殆ど座るところの無いようなソファーに座るよう促され、顔を引きつらせながらソファーに座った。 ソファーの前のガラス製の机の上には、女性物の口紅、化粧用品が無造作に転がっていた。 追川は、コーヒーを慣れた手つきでコーヒーメーカーからコップに注ぎ、私達の前に差し出した。 「遠慮せずに飲んでくれていいからねぇ」 「ど、どうも…」 「あら、ありがとうございます」 私達は口々にお礼を言いながら、コーヒーを口元に注いだ。 「!」 私がミルクをいつも入れる量だ。 私は、コーヒーはあの苦さが苦手でミルクをコーヒーが見えなくなるくらいまで入れるのだが、私のいつも入れる量ぴったりなのだ。
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