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その扉はあまりに小さくて入れない。
「どうしよ…」
「アリス、あれをお食べ」
チェシャ猫が指差したそれは、お茶会テーブルの回りに落ちているクッキー。
もちろん血まみれである。
「嫌だよこんなクッキー」
「食べなきゃ先へは進めない」
私はクッキーを指先で摘まむ。
するとクッキーに染み込んでいた血が、あっという間に消えていく。
その代わり、焦げ跡のような文字が残されていた。
『すべての言葉が真実だとは限らない』
「?」
「お食べ?」
恐る恐る口に含む。
すると突然、目の前の景色が変わった。
全てが大きくなった。
私が小さくなったのか。
「正解」
猫は言った。
「さぁアリス、あの扉の向こうへお行き。」
さっきの言葉が頭を掠めた。
扉の先には、巨大な薔薇が広がっていた。
白い、薔薇。
「あれ」
チェシャ猫はいなかった。
巨大な薔薇に阻まれて、道がない。
すると一本の薔薇が、私に話し掛けてきた。
「サキにイク?」
「行ってもいいの?」
「アリスのチをクレルナラ」
「……」
「イッテキ、チョウダイ」
まぁ、一滴くらいなら。
私はその薔薇のトゲで手の甲にキズを付けた。
一滴血が、地面に落ちる。
途端、白かった薔薇が赤に染まる。
阻んでいた道が、一気に開ける。
「サヨナラアリス」
「ありがとう薔薇さん」
道の先に、城が見えた。
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