第一章――――二つの出会い

7/29
前へ
/276ページ
次へ
「――君が戌井冬吾君、だな?」  どうやら人違いではないらしい。だが、どうして? こんな人が自分に何の用があるというのだ。返答に窮していると、神楽は片眉を上げつつ言う。 「おや、違ったか? 待ち合わせ相手を探しているようだったから、てっきりそうだと思ったのだがな」 「あ、いや……合ってます。俺が戌井です」 「そうか。安心した。まあ、座るといい」  手で促されるまま、向かいの席へと座る。  隣の席へ鞄を置きながら考える。この女性はいったい誰なのだろうか。冬吾の名前、そして、この店で待ち合わせをしているということを知っている人間といえば、当の待ち合わせ相手である岸上豪斗(きしがみごうと)くらいしか思い当たらない。  電話越しにたった一回話したことがあるだけだが、声から抱いた印象として、岸上は自分より二回りは年上の男性のようだった。間違っても、目の前の見目麗しい女性が岸上豪斗であるとは思えなかった。
/276ページ

最初のコメントを投稿しよう!

407人が本棚に入れています
本棚に追加