第一章――――二つの出会い

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 今朝、見知らぬ相手からかかってきた電話……。怪しいとは思ったが、あんなことを言われたら確かめないわけにはいかないだろう。 『――君の父親の死の真相を、私は知っている。それを君に話しておきたい』  岸上豪斗と名乗った男は、たしかにそう言ったのだ。  冬吾の父親は今から四年前に死んだ。名前は戌井千裕(いぬいちひろ)、県警捜査一課の刑事だった。周囲の人々は、彼を人望に篤く優れた刑事だったと、その死を惜しんだ。  母を病気で早くに亡くしていた冬吾にとって、父の存在は偉大だった。人々を守るため、正義のため、日夜忙しそうにしていた父の背中は、冬吾の憧れであり、誇りだったのだ。それだけに、その死が冬吾に与えた衝撃は並大抵のものではなかった。それ以来、冬吾は今となってはたった一人の肉親である妹と共に二人で暮らしている。
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