第一章――――二つの出会い

16/29
前へ
/276ページ
次へ
「他に何か質問はあるか?」  神村が言う。一応考えてみたが、なにも思い浮かばなかった。 「いや、特には」 「では、こちらから一つ訊いてもいいか?」 「え? ああ……どうぞ」 「その髪は、ファッションか何かか?」 「へっ?」  神村は冬吾のほうを振り向いて、右の耳近くの髪を指さす。 「そこのところ。私には寝癖のように見えるのだがな?」 「あっ……」  自分で触ってみてやっとわかった。毛先がハネている。朝に治したつもりだったのだが、寝癖がまだ残っていたようだ。 「す、すみません」  慌てて手で撫でつけて治す。神村はそれを見て笑い、 「気をつけたほうがいい。せっかくのいい顔が勿体ないぞ」 「は、はぁ……どうも」  冗談だとわかっていても、そう言われると悪い気はしない。我ながら単純である。
/276ページ

最初のコメントを投稿しよう!

407人が本棚に入れています
本棚に追加