第一章――――二つの出会い

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 ノックをする。間を置いて、もう一度。……返答はなかった。左右の扉にはそれぞれ真ん中あたりに縦一メートル、横三十センチほどの長方形のガラスが入っている。透明なガラスなので、中を覗けそうだ。右側の扉のガラスから中の様子を窺ってみるが、無人のようだった。  さて、どうしたものか。  神村の言葉を思い出す。岸上が不在なら中で待っていろ、とのことだった。ならば遠慮無く待たせてもらおうじゃないか。冬吾は二つあるうち右側のドアノブに手をかけ、扉を手前に開いた。 「失礼しまーす、と……」  誰にともなくそう言ってから中へ入る。会議室の中は奥行き、幅ともに七、八メートルほど。折りたたみ式の長机が、いずれも長い辺の方をこちらへ向けて、部屋の中央にいくつも並べてある。合わさってそれは、一つの大きな机のようにも見えた。一番手前の机にはぽつんと湯呑みが一個だけ置いてある。  机の行列を中心としてその手前側、そして左右に一つずつ、合わせて三つのパイプ椅子が置かれてある。必要になれば部屋の隅に立てかけられている閉じたパイプ椅子を加えるのだろうが、とりあえずは冬吾と岸上の分だけあればいいだろう。
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