第一章――――二つの出会い

2/29
前へ
/276ページ
次へ
 秋のある日の昼過ぎ。肩がけの鞄を持って男が一人、夕桜(ゆざくら)の街並みを歩いていた。  男の名前は戌井冬吾(いぬいとうご)。百八十を越す長身で髪は短く、やや目つきの悪い強面で、パーカーにジーパンという簡素な服装をしている。筋骨隆々というほどではないが、それなりに厚い体格の持ち主だった。  春に高校を卒業した十九歳であるが、その年齢とはいささか不釣合いな――平たく言うなら威圧感のある風貌のせいか、前から歩いてくる女や子どもはなんとなく彼と距離をとりつつすれ違うのだった。もっとも、冬吾にとっては慣れきったことなので気にしてはいない。
/276ページ

最初のコメントを投稿しよう!

408人が本棚に入れています
本棚に追加