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こんな濃い霧は見たことがない。
「凄いね」
「外、マジで見えない。歩けないんだよ。前が見えなくて」
「んで、館内に人いないの? 誰も?」
「うん。厨房もスタッフルームも、多分全部見たと思う」
「なにそれ……なんで?」
潤君はポケットから携帯を取り出した。
「ビックリして会社の人間に電話しても圏外で繋がらないんだよ」
「みんなの荷物は?」
俺はキョロキョロと部屋を見渡した。
「荷物もそのままだ。ちょっときてくれ」
潤君に手を引っ張られ力がうまく入らないまま、身を任せるように立ち上がった。
俺たちは、やっぱり無人のロビーを抜けて、二人で本館の方へ移動する。
「みんなで朝風呂? って思ったけど、やっぱり無人だった」
昨日の宴会場を見ると、朝食の準備がしてある。人数分のお膳が並んでいる。入り口には昨日と同じように会社名の入った張り紙。なのにやっぱり人がいない。
朝の準備を終えてどこかへ行ってしまったのか? おかしいよね。用意だけして、綺麗に人だけいないなんて……まさか……。
「避難……した、とか?」
ゆっくりと宴会場から潤君へ視線を移すと、強ばった表情でうんうんと頷いてる。
「俺も、そう思う。何があったのか分らないけど、非常事態なんだ。だから、俺達もここに居てはまずいかも」
「え、どうする?」
「とりあえず、昨日の居酒屋の方へ行ってみようか? 人がいるかもしれない」
「うん」
取り敢えずロビーへ戻り、潤君の手を掴んだ。
「ちょっと待って」
「なに?」
昨日受付に返した懐中電灯を手にとって、潤君にもそれを手渡す。
「なるほど。これだけ霧が深いと、お互い目印は必要だね」
「うん」
自動ドアが開いて、俺たちが外へ出たのになぜかドアはそのまま閉まらなかった。
館内にもどんどんと白い霧が流れ込んで行く。
それを後ろに見て不安が俺の中で膨らんだ。
まるで身体の中にまで霧が入り込んでいくような感じ。
潤君が俺の手をギュッと握ってくれた。
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