第3話

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 こんな濃い霧は見たことがない。 「凄いね」 「外、マジで見えない。歩けないんだよ。前が見えなくて」 「んで、館内に人いないの? 誰も?」 「うん。厨房もスタッフルームも、多分全部見たと思う」 「なにそれ……なんで?」  潤君はポケットから携帯を取り出した。 「ビックリして会社の人間に電話しても圏外で繋がらないんだよ」 「みんなの荷物は?」  俺はキョロキョロと部屋を見渡した。 「荷物もそのままだ。ちょっときてくれ」  潤君に手を引っ張られ力がうまく入らないまま、身を任せるように立ち上がった。  俺たちは、やっぱり無人のロビーを抜けて、二人で本館の方へ移動する。 「みんなで朝風呂? って思ったけど、やっぱり無人だった」  昨日の宴会場を見ると、朝食の準備がしてある。人数分のお膳が並んでいる。入り口には昨日と同じように会社名の入った張り紙。なのにやっぱり人がいない。  朝の準備を終えてどこかへ行ってしまったのか? おかしいよね。用意だけして、綺麗に人だけいないなんて……まさか……。 「避難……した、とか?」  ゆっくりと宴会場から潤君へ視線を移すと、強ばった表情でうんうんと頷いてる。 「俺も、そう思う。何があったのか分らないけど、非常事態なんだ。だから、俺達もここに居てはまずいかも」 「え、どうする?」 「とりあえず、昨日の居酒屋の方へ行ってみようか? 人がいるかもしれない」 「うん」  取り敢えずロビーへ戻り、潤君の手を掴んだ。 「ちょっと待って」 「なに?」  昨日受付に返した懐中電灯を手にとって、潤君にもそれを手渡す。 「なるほど。これだけ霧が深いと、お互い目印は必要だね」 「うん」  自動ドアが開いて、俺たちが外へ出たのになぜかドアはそのまま閉まらなかった。  館内にもどんどんと白い霧が流れ込んで行く。  それを後ろに見て不安が俺の中で膨らんだ。  まるで身体の中にまで霧が入り込んでいくような感じ。  潤君が俺の手をギュッと握ってくれた。
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