第3話

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「誰か居るのか?」  潤君が大きな声を出す。  でも、相手は無言で何も返事をしない。  真っ暗じゃなくて、真っ白なのに、明るいのに、太陽の光も届かない濃い霧のせいで、誰が居るのかさえ分からない。  また、ザッ……。  返事をしないってどう言うことだろ、マジで怖いよ。動物なの?  なりふり構ってられないと思った俺は潤君にくっついた。  いよいよ、出てくんのか? スライムか!?  ビクビクする俺の耳元で潤君が囁いた。 「静かに、階段へ上がろう。足音を立てないように」  目の前に得体のしれない何かが居ると思うと、逃げ場は遊歩道しかない。 俺はコクコクと頷いて更に潤君に身を寄せた。  ザッ……。  ひゃっっ!  その音は、さっきより近くに聴こえた。 「行こう」  手すりを掴みながら潤君が俺の肩を抱き寄せる。 「光、消していこう。後ろの何かに気づかれない様にしないと」  気づかれないように……と言うより、既に俺は声が出なくなっちゃってます。  やっぱり必死に頷きまくって、俺たちは懐中電灯の灯りを消し、一歩、一歩、足音を殺して階段を登って行く。  肩を抱いてくれる潤君の体温だけが頼りだった。  登りきると、昨日と同じ手作りの看板が見えた。 「ここだ。こんどは左だな」  少し高い位置へ来たせいだろうか、心なしか若干霧が薄くなった様な気がする。  湖の方へ向かおうとしたその時、遠くの方で微かに人の声がした。 「………ーーぃ」  遠くで誰かが呼んでる。動物じゃない。人間の声だ。  俺たちは顔を見合わせた。潤君にも聞こえたんだ。二人で立ち止まり、その声に耳を傾ける。 「……ぉーーーぃ……」  さっきより、もっとハッキリと聴こえた。   しかも聞き覚えのある……これ、新田さんの声じゃない?  「潤君。……これ、会社の! 新田先輩の声だ」 「え? マジで?」 「うん。そうだよ。きっと、俺たちの事探してんだよ」  話しているうちにも俺達を呼ぶその声はどんどん近くなる。 「……おーい! 佐伯っ! 居ないのかーー!」 「新田さんっ! ここです」  俺が返事をすると、真っ白な霧の向こうにうっすらと見えてくる人影。  一メートル程近づいた時、やっとハッキリと輪郭を捉える事が出来た。その姿はやっぱり新田さんだ。  新田さんは浴衣姿のままだった。
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