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「誰か居るのか?」
潤君が大きな声を出す。
でも、相手は無言で何も返事をしない。
真っ暗じゃなくて、真っ白なのに、明るいのに、太陽の光も届かない濃い霧のせいで、誰が居るのかさえ分からない。
また、ザッ……。
返事をしないってどう言うことだろ、マジで怖いよ。動物なの?
なりふり構ってられないと思った俺は潤君にくっついた。
いよいよ、出てくんのか? スライムか!?
ビクビクする俺の耳元で潤君が囁いた。
「静かに、階段へ上がろう。足音を立てないように」
目の前に得体のしれない何かが居ると思うと、逃げ場は遊歩道しかない。
俺はコクコクと頷いて更に潤君に身を寄せた。
ザッ……。
ひゃっっ!
その音は、さっきより近くに聴こえた。
「行こう」
手すりを掴みながら潤君が俺の肩を抱き寄せる。
「光、消していこう。後ろの何かに気づかれない様にしないと」
気づかれないように……と言うより、既に俺は声が出なくなっちゃってます。
やっぱり必死に頷きまくって、俺たちは懐中電灯の灯りを消し、一歩、一歩、足音を殺して階段を登って行く。
肩を抱いてくれる潤君の体温だけが頼りだった。
登りきると、昨日と同じ手作りの看板が見えた。
「ここだ。こんどは左だな」
少し高い位置へ来たせいだろうか、心なしか若干霧が薄くなった様な気がする。
湖の方へ向かおうとしたその時、遠くの方で微かに人の声がした。
「………ーーぃ」
遠くで誰かが呼んでる。動物じゃない。人間の声だ。
俺たちは顔を見合わせた。潤君にも聞こえたんだ。二人で立ち止まり、その声に耳を傾ける。
「……ぉーーーぃ……」
さっきより、もっとハッキリと聴こえた。
しかも聞き覚えのある……これ、新田さんの声じゃない?
「潤君。……これ、会社の! 新田先輩の声だ」
「え? マジで?」
「うん。そうだよ。きっと、俺たちの事探してんだよ」
話しているうちにも俺達を呼ぶその声はどんどん近くなる。
「……おーい! 佐伯っ! 居ないのかーー!」
「新田さんっ! ここです」
俺が返事をすると、真っ白な霧の向こうにうっすらと見えてくる人影。
一メートル程近づいた時、やっとハッキリと輪郭を捉える事が出来た。その姿はやっぱり新田さんだ。
新田さんは浴衣姿のままだった。
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