重荷にならない女

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「初っ端で秘書課に配属されるって…お前入社試験何点取ったんだよ」 藤次郎と同じ会社に入ったのは、何も意図したことじゃない。大学での会社説明会で一番ランクが高かったおかげだ。 とにかく、藤次郎がどうこうではなく、純粋に会社に惹かれただけ。初任給が良かったのが決定打だ。 四年の時を経て再会したあたしたち。 驚いた。藤次郎は勿論、あたしも。 配属された秘書課の課長だったことに、否、それより何より、三十二歳という若さで年功序列の壁を打ち破って管理職に就いていたことに。 「由宇。俺、婚約したから」 半ば予想していた台詞だっただけに、とりわけ動じることもなかった。 社長令嬢がちょくちょくうちの課に遊びに来ていたし、終業後にプレジデントの後部座席に乗って会社を後にする姿も何度か見かけていたし。 そんな時、藤次郎は愛車のシーマの鍵をあたしに手渡して、乗って帰ってくれと頼んでいた。 よくわからない苛立ちから、車をぶつけてやろうと何度思ったか知れない。 でも、丁度いい。所謂、お兄ちゃん離れってやつをするときかもしれない。 一番身近にいた一番格好いい人が、あたしから離れていく。 きっと、他の男と藤次郎を比較することもなくなる。 そう思っていた。
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