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「ねえ、真里?」
「んー?」
「あたし、理想…高い?」
瞬きをしたら音がしそうなほどに長い睫毛にビューラーを乗せた真里が、怪訝そうな目を向ける。
結婚できないとか嘆く前に、食堂で堂々と化粧直しをするクセをやめることから始めたらどうだろうか。
やはり隣の女性社員が、迷惑そうにこちらを見ている。
「まあ…昔に比べたらね。大学の頃はそりゃ可愛かったわよー?男は彼氏だけでいい、って」
だって、高校まではおままごとみたいに誰かとくっついて、別れただけで。
大学に入ったら入ったで、藤次郎と離れたもんだから、同世代のお子様思考の男たちに見事に感化されて。
子どもな恋愛していたんだなぁ、なんて。
「自然の摂理みたいなもんよ。あたしらぐらいの歳になると、どうしてもルックスより懐に関心が向いちゃう。考えてもみなよ?バーで、女が財布を出すのを待つ男!少し多く出しただけで恩着せがましくする男!死んでも抱かれたくない!顔も見たくない!」
ここが公共の場だってこと、真里はわかっているのだろうか。
怖くてもはや、隣の女性社員の顔を見れなかった。
「わかるよ、由宇の気持ち。あんなイイ男が近くにいたら、理想も高くなるってモンよねー」
「お母さんと同じこと言ってる」
「誰だって思うって」
やっぱり、藤次郎は格好いいのだろう。
自分のことを褒められたわけじゃないのに、どこかくすぐったい。
でも、藤次郎が褒められる度、彼を遠く感じてしまう。
それが、ほんの少しだけ寂しく感じられた。
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